ここ最近、自分の体を愛するということの意味合いが変わってきている。「どんなに遅くても一歩ずつ前に進みたい」とか「自分の外見を受け入れて心を穏やかにしたい」という発言も、合理的で妥当かつ達成可能な目標として受け入れられるようになってきた。

ポディ・ポジティビティに代わる形で注目を浴びているのは、みんながみんな簡単に自分の体を受け入れて愛せるわけじゃないという現実を理解したうえで、まずはベースとなる受容を目指す“ボディ・ニュートラリティ”の考え方。ポディ・ポジティビティより若干控えめではあるけれど、同じくらいパワフルなコンセプト。

このコンセプトが生まれた理由は、ボディイメージの歴史に隠されている。そもそも“ボディ・ポジティビティ”は、1990年代にフェミニスト活動家のコニー・サプチャークとデブ・バーガードが生み出した言葉で、自分の体に対する考えや気持ち、希望や不安をネット上で共有するコミュニティが出てきた頃から急速に広まった。でも、一部の人には自分の体を愛するどころか好きになることさえ難しかった。

一方のボディ・ニュートラリティは、完全に自信喪失中の人にも寄り添ってくれるコンセプト。このコンセプトの支持者に言わせると、いつも前向きに体のことを考えなければならないというポディ・ポジティビティのプレッシャーは、本来の意図に反してマイナス思考とネガティブなボディイメージを生み出していた。

最近は、このニュートラルの概念がデフォルトになりつつあって、イギリス版ウィメンズヘルス専属トレーナーのソフィー・レイトも、どのようなサイズであれ自分の体を“受け入れる”ことに全力を注いでおり、それを自分の生き方にする方法をフォロワーに伝授している。ここからは、このボディ・ニュートラリティという考え方をより詳しく見ていこう。

ボディ・ポジティビティの限界

「大事なのは、自分が思う欠点も含めて自分の体を受け入れることです」と語るのは、ロンドン摂食障害&ボディイメージセンターの臨床ディレクター、ブライオニー・バムフォード博士。「そうすれば、自分が思う欠点のせいで感情が乱れたり日常生活に悪影響が出たりすることもありません。ボディイメージが悪い女性にとって、自分の体が大嫌い、あるいは憎い状態から大好きになるというのは非常に大きな飛躍です」

この飛躍が非現実的であることは、『Body Positive Power』の著者でボディ・ポジティビティ運動を牽引してきたメーガン・ジェイン・クラッブ(@bodyposipanda)にも分かっている。ダイエット文化からの脱却を推進する慈善団体Anti-Diet Riot Club主催のイベントでは、ウィメンズヘルスに対し「私にとってボディ・ポジティブであるということは、自分を心から強く信じることですが、これは決して簡単なことではありません」と語った。

「ある日突然『人の意見は関係ない!』と思えるようにはなりません。何年も自分の体を批判してきた人が急に『自分の体は完璧だ!』と思うこともありません」

20代のモデル、レベッカ・ピアソンは、“モデルらしい外見”を何年も追い求めているうちに自分の自信を少しずつ失った。「私は、いつも自分の体に不満があって、少し太りすぎだからといっては2週間デザートを控えてジムに通うような生活を続けていました」

「周りのモデルはみんな私より体重が少なくて、体が引き締まって見えました。あの頃はオーディションや自分の体に対する人の意見が怖くて仕方なかったです。実際そんなことはないのに、この体では用意された服が着れない、クライアントをガッカリさせると思い込んでいました」。でも、レベッカのマインドセットは、ボディ・ニュートラリティというコンセプトに出会ったことで大きく変わった。

「ボディ・ニュートラリティのおかげで私は、手に入りようのない理想の美を追い求めて悲痛な努力をする生活から難なく解放されました。自分の体は醜いのではないか、欠陥があるのではないかと思い悩んでいる状態からいきなり体の隅々まで愛せるようにはなれません。そんななか、ボディ・ニュートラリティは健全な中間地点に思えました。『これでいい。体が健康なだけで恵まれているんだから、もう少し落ち着こう』と言ってくれている感じがしました」

ボディ・ニュートラルな目標設定

young woman smiling
Rockaa//Getty Images

“中間地点”という表現からも分かるように、ボディイメージは少しずつ変化するもの。「自分の体を完全に愛することも嫌うこともしないというのは、ボディイメージが悪い人にありがちな白黒/善悪つけたがる癖を絶つための大事な一歩です」と説明するのは、ボディイメージを専門とする心理学者のステラ・スタティ博士。「これなら重要ではあるけれど無理のない目標になりますよ」

レベッカは、ニュートラルなスタンスを取ることで無理のない目標を手に入れただけでなく、ボディポジティブな状態に向かって歩み出すこともできた。「まず、朝5時に起きて自分より細い人ばかりのクラスに参加するのをやめました。単調なサラダにも別れを告げて、アーユルヴェーダ流の自炊を始めてからは体に栄養が行き渡っている感じがしますし、気分もいいです。カーディオバーとヨガも始めたら本当に楽しくて、自分の体の見た目ではなく能力に感謝できるようになりました」

このように、エクササイズはボディイメージを最悪の状態からニュートラルな状態に近付けるうえで役立つ。女性専門パーソナルトレーナーのハンナ・レビンも、クライアントをゴールへと導くうえでボディ・ニュートラリティのコンセプトを用いている。

「ボディ・ニュートラルのスタンスを取ると、見た目のことばかり考えるのをやめて、筋力やフィットネスを向上させることに集中できるようになります」とレビン。「また、10kmランのタイムを上げたりリフティングの重量を増やしたりといった目標を立てると、自分の体の能力に嫌でも気付かされるので、自分の体そのものを受け入れるのが楽になります」

ジムやトラックで自己ベストを更新したときのことを思い出せば、その意味が分かるはず。普段は見たくない自分の脚も、5kmを25分以下で走ったあとは最高で最強に思える。

包括的なアプローチ

ニュートラルなスタンスを取るのは、それ自体がヘルシーなこと。何事(自分の体、仕事、人間関関係など)に対しても常にポジティブな気持ちでいようとすると、自分で自分の首を絞める羽目になりがち。でも、ボディ・ニュートラリティには自由裁量の余地があるので、1日くらいベッドから出なくても大丈夫。

これが理由でボディ・ニュートラリティは、前身のボディ・ポジティビティよりも包括的と言われている。「障がい者(なかでもにとく有色人種の障がい者)は、この手の会話に参加させてもらえないことが多いです」と話すのは、自分の障がいについて書く活動家のキア・ブラウン。「でも、ボディ・ニュートラリティという考え方は私たち障がい者にも、体に関する複雑な問題を乗り越えるための機会を与えてくれます」

「ほとんどの女性は、いくつかの部位に対してポジティブな感情を持っており、他の部位は好きでも嫌いでもないという感じで受け入れています」とバムフォード博士。「その両方が少しずつあるときは、ボディイメージが最も健全と言えるでしょう」。つまり、人はみな一長一短で「自分の脚は気に入っているけれど、おなかは嫌い」とか「お尻の形はいいけれど、セルライトは許せない」という人は星の数ほどいるということ。

「私にとって最大の変化は、自分の体を“いまいちなパーツの寄せ集め”ではなく“全体”として見るようになったことです」とレベッカ。「この影響は大きいです。エージェントにも『最近の君からは自信を感じる』と言ってもらえて、仕事の予約が増えてきました。突然ヴィクトリアズ・シークレットのモデルみたいな体になったわけではありませんが、以前のように恐怖にとらわれることはなくなりました」

ボディ・ニュートラリティの支持者によると、このスタンスを受け入れたときの強い感覚は“解放”という言葉で表現できる。具体的には、自分の体に対する見方からの解放や、全身を愛さなければという気疲れからの解放だ。

「自分の見た目やネガティブな思考にとらわれなくなると、そのぶん精神的なゆとりが生まれて、人生の他の側面に集中できるようになります」とバムフォード博士。「家族、友人、仕事にフォーカスするのもいいですし、あなたを形作る性格特性に意識を向けてみるのもいいですね」

「現代社会では、“そのままでいる”ことに反感すら覚えます」とレベッカ。「でも、私の体は結局のところ私の人生の表われですし、そのままでいいと思っています」。あなたも今日から自分の体をニュートラルに捉えてみては?

「ボディ・ニュートラリティは戦場に立てる白旗」

waving the white flag
mrPliskin//Getty Images

英ハンプシャー州フリート在住のベッキー(24歳)は、長い間ボディ・ポジティビティを追い求めてきたものの、大した結果を出せずにいた。

「私は、メーガン・ジェイン・クラッブのインスタグラムを通してボディ・ニュートラリティというコンセプトを知りました。かなり長い間ボディ・ポジティビティを追い求めていた私にとっては、前向きな気持ちを強要されないことが新鮮でした。このスタンスに立つと、ボディイメージのアップダウンを受け入れるだけのゆとりができて、一息つけるようになります。そのおかげで私の体に対する見方は一変しました。以前は自分の外見で自分の価値が決まると思っていましたからね。ボディ・ポジティビティを追い求めていたときは、体に対する自意識が強かったように思います。

でも、ボディ・ニュートラルな生き方を選んでからは、自分の外見を気にしすぎることがなくなった反面、自分を形作る物事に感謝するようになりました。自分の体を嫌うでも愛するでもなく、ただ受け入れられるというのは、頭のなかの戦場に白旗を立てるような感じです。

私は物心ついた頃からずっと自分のボディイメージに悩んできました。ダイエットありきの生活を必死に手放そうとしても、こうでなきゃダメ、ああでなきゃダメという思考はしつこく付いて回ります。一瞬で断つことはできません。でも、ボディ・ニュートラリティの考え方に沿って生きると、自分に正直でいられます。セルフラブを無理やり優先しなくても、私は十分生きていけます」
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Emily Reynolds Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。