数多くの雑誌の表紙を飾り、写真集も注目を集めるフォトグラファー、花盛友里さん。今ではオファーの絶えない”売れっ子”となっているが、デビューから数年はまったく仕事がなく、カメラマンの道を諦めようと思ったことも一度ではないという。

食費を浮かすためにシャバシャバのカレーを食べた

「撮りためた作品集を抱えて出版社をたくさん回ったけど、仕事はもらえませんでしたね。写真では食べていけないので、居酒屋さんとか新宿ゴールデン街のバーとか、いろんなバイトを掛け持ちして生活していました。

よく食べていたのは、食費を浮かすために水で薄めて量を増やしたシャバシャバのカレー。あと、もやしです(笑)」

もうやめよう、と思い、ハローワークに行ったことも。しかし誰かの代打として入った仕事や、小さなカット撮影をこなし続けるうち、撮影の依頼が徐々に増えていった。アルバイトを辞め写真の仕事だけに一本化したのは、デビューしてから4年後のことだった。

雑誌からも指名で仕事が入るようになった。苦労した時代を経てやっと軌道に乗ってきたそのときに、妊娠が発覚する。

「これで私の仕事人生はもう終わりだ、と思いました。せっかくここまで来たのに、全部なくなってしまう、と」

妊娠を隠して、仕事を受け続けた

dear my body 花盛友里

仕事を失いたくない……その一心から、妊娠を隠して現場に出ることを続けた。アシスタントもいないため重い機材を一人で運び、つわりによる吐き気を我慢して撮影をこなした。身長以上に大きなストロボを担いで、涙が止まらなかった帰り道。妊娠による貧血で、撮影中に休憩をもらうこともあった。

「それでも、言ったら仕事がなくなると思ったから」。実に妊娠8カ月になるまで、仕事関係者には隠し通した。「今思えば何でそこまでやったんだろうと思いますが……不安だったんですね」

出産後。その感じた不安どおり、一度掴んだはずの仕事は、すべて無くなった。

「また作品撮りから始めよう」子育てだけで精一杯の日々を送りながらも、母親としての顔だけでない自分が欲しかった。奇抜な作品を作りたいという思いから、下着やヌード作品も撮影した。

ヌード作品を撮るうち、花盛さん自身の中にも、変化が現れる。

「綺麗でスタイルのいいモデルさんでも、『ここに自信がなくて……』って言うんです。でも、撮影した写真を見せると、『ここが嫌いだったのに、写真だと素敵に見える!』ってめちゃくちゃ笑顔になるんですよ。モデルさんで、こんなに綺麗な人でも、みんなそれぞれに悩みを抱えているんだと気づかされました。

『あなたはあなたが思っているより、美しい』それを伝えたくて、『脱いでみた。』を始めたんです」

加工しなくても「可愛い」を撮る

dear my body 花盛友里

『脱いでみた。』は、一般女性のフルヌード撮影プロジェクト。モデルの募集は、花盛さんのインスタグラムで不定期に行っている。こだわっているのは、モデルの選考をしない、完全なる「早い者勝ち」で決めること。

「『どんな人でも必ず美しいところがある』と言いたいのに、モデルさんを選ぶのは違うと思った。撮影日にドアを開けて『こんにちは、初めまして』で、初めてモデルさんに会います。そういう正々堂々とした状況で初めて、『モデル選考していないけど、ほらこの人、とっても綺麗でしょ。美しいって思うでしょ♡』って、胸を張って言えると思うんです」

被写体は、雑誌や広告の撮影現場のようなプロのモデルでもなく、スタイリストもヘアメイクもついていない、ごく普通の一般の女性。さらに写真選考もせず、どんな容姿で、どんな体形かも分からない相手を、初対面で撮影する。そして、一切の画像修正をしない。修正や加工をしたら、ありのままのその人の美しさを写したことにはならないからだという。『脱いでみた。』のモデルたちはみな、加工されることのないリアルな体形で、シミもほくろも下着の跡もありのまま切り取られる。

それなのに、写真に収まった彼女たちの全員が、思いきりその人らしい美しさと魅力に溢れるのだ。

「プロの現場で美しい写真を撮れるのは、カメラマンにとって当たり前のことですよね。だけど、そうじゃない状況でも可愛く撮れたら、最強だと思うんです」

この言葉の根底には、一般的な美の基準に縛られて、女性たちが心を曇らせることがなくなるようにーー”すべてのカラダは美しい”と証明したい、そんな思いが流れている。

花盛さんによるヌード撮影は、さながらセラピーのようだと形容される。自分にうまく自信が持てずにいた女性や、小さなコンプレックスを抱えていた女性が、撮影を経ると必ず、パワーアップした笑顔を見せる。

「理想通りじゃない自分だけど、悪くないかも」ーーそんなふうに、写真に写る自分を今までより少し愛おしく思えるからだろう。

反対されても、ヌードを撮り続けたい理由

dear my body 花盛友里

「周りから『ヌード撮影なんてやめた方がいいんじゃない』って言われたこともあります。撮影後は魂ぜんぶ持って行かれるほどエネルギーを使い果たすし、お金にもならないヌード撮影をなんでこんなに頑張ってるんだろうって、自分でも思います」

今回のウィメンズヘルスの企画「Dear My Body」での撮影も、エネルギーを消耗した。

「全国からたくさんモデル応募が来たのは、うれしかったですね。この企画は早い者勝ちではなく、編集部が事前に選考した人。思い入れを強く持って撮影に挑んでくれた方ばかりだったので、その想いを全部受け取りました。その人たちの人生の一部に触れる撮影は、私にとっても一種のセラピーかもしれない。撮影中に話す会話や、レンズを通して交わすコミュニケーションに必ず影響を与えられ、自分が成長させてもらっているんです」

一糸まとわず裸になる撮影は、心まで裸で写すのかもしれない。撮影後は精魂尽き果て、朝とは別人のように抜け殻になっていた花盛さんの姿は、撮るのは楽しいが、そればかりではないことを表している。「本当にあれでよかったのか」と、終わった後もしばらく悩むこともあれば、自分の力量のなさを振り返り涙する場面もあった。そんなふうに、たとえ身を削るような作業だとしても、花盛さんが伝えたいことは何なのか。

「みんなちがって、みんな素晴らしい。どのカラダも、最高に美しい」

花盛友里の撮影という行為に、その写真に、救われた女性は多い。その理由は、「みんな誰もが、生まれてきてくれてありがとう」という揺るぎないメッセージを注がれるからに他ならない。

「脱いでみた。」のインスタグラムアカウントで彼女が紡ぐメッセージには、今日も多くの”いいね”が集まっている。

花盛友里Instagram @yurihanamori
「脱いでみた。」Instagram @nuidemita_nanamori

花盛友里個展「脱いでみた。」9/1(金)〜9/4(月) 開催!

<概要>

花盛友里写真展「脱いでみた。」

期間:2023年9月1日(金)~9月4日(月)

場所:Shaba gallary

東京都新宿区築地町8 ワタナベビル1F

時間:13:00~19:00

期間中前回完売した写真集 ”Just like that,its been 26 years”を再販します。

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Kanna Konishi
ウィメンズヘルス・副編集長

編集者として多くのメディアに携わったのち現職。健康オタク歴20年、趣味は"毒出し"で、体と心と部屋を効率よく整え、環境にもいい健康法を探るのがライフワーク。チアリーダー経験あり、勝手に人を応援しがち。仕事では「心から推せるものしか紹介したくない!」と目を血走らせ、常に情熱大陸に上陸中。 

Instagram: @editor_kanna_purico