ここ数年、「植物性タンパク質」「昆虫食」「代替ミート」など、耳にしない日はないのではないかと言うほど、身近な存在となりつつある動物性タンパク質に代わる代替食品の数々。中でも、今最も注目されているのが「微生物タンパク質」なるもの。
一体どんなタンパク質なのか、ヘルシーなものなのか、あるいは美味しいのか、世界で初めて微生物タンパク質の販売許可がおりたシンガポールに住む筆者が取材してきた。
微生物ジェラートとは？
微生物ジェラートとは、空気中に含まれるCO2をエサとする微生物をパウダー状にして、作られたジェラート。シンプルに要約すると、”空気でつくられたジェラート”というわけだ。この微生物パウダーは「Solein（ソレイン）」と名付けられている。
そして、見逃せないポイントが、タンパク質豊富なパウダーということだ。タンパク質は、私たちの体作りにはもちろん欠かせない栄養素であることは言うまでもないけれど、料理においても重要な役割を担っている。
例えば、今回のジェラートに関して言えば、アイスクリームやジェラート作りには、タンパク質（あるいは凝固剤）が必須。なぜなら、水と油が分離してしまうから。嘘だと思うなら、ミキサーに水と油だけを入れて回してみて。一瞬混ざるけれど、すぐに分離してしまう。だから、クリーム（乳）や、豆乳のようなタンパク質が必要となってくるわけだ。
従来のジェラート作りの材料である、クリームや豆乳といったタンパク質の代替として、このソレインを使用しているのが、この微生物ジェラート『Solein® gelato（ソレイン・ジェラート）』だ。
微生物が注目される理由
この微生物タンパク質が注目されているのは、サステナブルな観点が非常に影響している。動物性タンパク質を生産する過程での環境負荷は、周知の事実のはず。また、食糧危機も問題としてあがっている。食料品高騰のニュースを耳にしない日はもはやないのではというここ最近、特に穀物、大豆、とうもろこしなど、従来の代替肉やビーガン食材の材料になる食品の値段が、高騰している。つまり、これまで代替肉として注目されていた大豆ミートなどの価格の高騰、また生産が困難な状態になってくるのではないかと予測されている。
一方で、ソレインのような微生物タンパク質においては、空気そして少量の栄養素のみで培養が可能。また、生産には、農業、天候、気候、地理に左右されない。たとえ、砂漠や北極であろうと、宇宙であろうとも生産できるんだとか。動物はもちろんのこと、光を必要としないため、ソレインは世界で最も持続可能なタンパク質と言えるのかもしれない。
大豆ミートよりも、よりリーズナブルに必要な分を培養し、供給できるのではないかとして、現在、多くのスタートアップ企業がこのような微生物タンパク質の開発に乗り出している。
世界初・微生物タンパク質ジェラートをシンガポールで実食
微生物ジェラートなるものが、一体どんなものなのか気にならない？（私は気になって仕方なかった）
と言うことで、ソレインを開発した「世界の食料生産に革命を起こす」をミッションとして掲げるフィンランドのフードテック企業「Solar Foods（ソーラーフーズ）」が、世界で初めて販売許可の得ることのできたシンガポールに住む筆者が、イタリアンレストラン「Fico」にて、ソレインを使って作られた「ソレイン・チョコレート・ジェラート」を実食してきた。
Ficoがあるのは、マリーナベイサンズやマーライオンなど観光スポットからかなり離れた地元民に愛される国立公園イーストコーストパーク。総面積は185ヘクタールにも及び、パーク内の中心スポットよりもかなり離れた静かな場所にある。その辺りを訪れるのは、近所に住む住民や、ランナー、サイクリストたちなどの運動オタク、あるいはわざわざFicoを目当てに来た人以外にはいない場所だ。観光客はほぼ皆無。ソレイン・チョコレート・ジェラートはFicoの持ち帰り用キオスクで購入できる。（ちなみに、キオスクの営業は15時から17時30分まで）
ソレインジェラートの見た目は、街のジェラート屋で販売されるジェラートとほぼ変わりのないチョコレートジェラートだ。香りは、リッチなチョコレートが香る。例えば、大豆パウダーなどは、大豆の香りのインパクトが強く、食べる前から「大豆ジェラート」というイメージを持ちやすい。一方で、ソレインジェラートは、何の邪魔もなくその見た目と香りから「普通のジェラート」としての期待が増す。
しかし、口に入れてみると、乳成分を一切感じない。もちろん乳成分を加えていないので当たり前と言えば、当たり前なのだが、その見た目とのギャップはかなり大きいので、驚くかも。また、口の中に、大豆ジェラートを食べた時のような、明らかに違った香りが残ることもない。一般的なジェラートにあるような、クリームっぽさは皆無と言って良いだろう。チョコレートアイスが食べたいけど、さっぱりした味わいが好きな人は美味しいはず。
余談だが、チョコレートはなめらかなカカオバターを使用しており、カカオ率高めなのでリッチなチョコレートフレーバーを味わうことができる。
ジェラートを口にするのは、レストランに食事をしに来た人、あるいは、パークに遊びに来た人、またランナーやサイクリストがプロテイン補給に立ち寄ることもあるんだとか。ちなみに、お値段は8シンガポールドル（日本円で約850円）。
ソレインの可能性
ソレインの栄養素は、65〜70％がタンパク質、5〜8％が脂肪、10〜15％が食物繊維、3〜5％がミネラル。ソレインは鉄分とビタミンB群を供給し、栄養も抜群に良い。また、パウダー状にしたソレインは、水に溶けやすい上、無味無臭。つまり、乳製品や肉の代替品、様々なスナックや飲料、麺類やパスタ、パンやスプレッドなど、様々な食品において既存のタンパク質の代わりに使用することができる可能性が秘められている。
ソーラーフーズは、ソレインの規制認可を受けた最初の市場シンガポールに続き、現在は次なるマーケットへの進出を図っているという。2023年5月末には、味の素株式会社が、ソーラーフーズと、戦略的提携に関する基本合意書を締結したと発表されている。ソレインが日本上陸した際には、ぜひ試してみてはいかが？
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