記事に移動

買ってはいけない「卵」の真実【エビデンスのあるオーガニック第4回】

ドイツ在住のオーガニック専門家・レムケなつこさんが解説する、誰しも知るべき卵の選び方。

By
close up of young woman grocery shopping in supermarket she is holding a box of fresh organic free range eggs in front of refrigerated section healthy eating lifestyle
d3sign//Getty Images

エビデンスのあるオーガニック情報をドイツ在住のオーガニック専門家・レムケなつこさんが4回に渡ってシェアしてくれた本連載。最終回の今回は「買ってはいけない卵」がテーマ。折しも、日本では鳥インフルエンザが猛威をふるい、卵を出荷できない生産者が続出し、卵の価格が高騰したばかり。そんな今、なつこさんのお話を通し、卵についてぜひ見識を深めて(以下「」なつこさん)。

抗菌剤を投与された鶏の卵は控えて

organic eggs in cartons tray on blue background flat lay, top view
Tanja Ivanova//Getty Images

「ズバリ、一般的に出回っている慣行畜産の鶏から生まれた卵はおすすめできません。日本ではケージで育てられている鶏はほぼ屠殺される前の全期間で、エサを通じて抗菌剤が投与されているという報告があります。 

抗菌剤とは、細菌の増殖を抑制して殺菌する薬、いわゆる抗生物質のこと。抗生物質と聞くと人間に使う薬と考える人が多いと思いますが、全世界の抗生物質の約80%は私たちの人間の餌になる“家畜”に使用されていると報告する研究者もいます。事実、慣行畜産の世界では病気予防、治療、成長促進を目的に抗生物質が使用されてきました。ちなみに鶏の成長を促すことを目的に抗生物質を使用することはアメリカとヨーロッパでは既に禁止されていますが、日本では未だに認められています

健康のために“有機卵”という選択を

close up of child's hand holding eggs
Jessie Casson//Getty Images

「最近、日本では卵の高騰化が起きて値上がりしているようですが、これまではリーズナブルな食品でしたよね。ドイツも然り。8個や10個入りが200円程度で買えます。一方、有機卵はそれに比べて割高。でも、私自身はオーガニックスーパーでこの有機卵を購入し、1日1個は食べるようにしています。私は普段、肉や魚をそんなに食べないので、卵は重要なタンパク源なんです。 有機卵を選ぶ理由はまず、健康を考えて。これは世界的な学術的にも実証されてきていますが、有機卵は慣行卵と比較すると、オメガ3の含有量が高く、他の栄養素も多いというデータが。オメガ3には血流改善やコレステロール値の低下、アレルギー抑制など、数多くの健康効果がありますから、有機卵を通して摂取できるのはありがたいところ」

恐ろしい菌と鶏が関係している!? 

pills that shape a chicken symbol for veterinary healthcare issues, medicine, pharmacy, and antibiotics isolated vector illustration on black background
PeterHermesFurian

「みなさんは“薬剤耐性菌”という言葉は聞いたことがありますか? WHO(世界保健機関)が何年も前からずっと各国に対策を講じるように勧告し続けている菌の名前です。

現在、死亡要因としての一番の病気は癌。日本をはじめ、ほぼすべての先進国で癌が1位なんですが、2050年までにはこの薬剤耐性菌が死亡要因の1位になると言われているくらい、恐ろしい菌なんです。 

そもそも、抗生物質を安易に使用することで、薬剤に対して耐性を持った菌がどんどん生まれており、薬剤耐性菌と呼ばれます。この菌の怖さは、簡単に伝染することなんです。例えば、抗菌剤を投与され続け、薬剤耐性菌を持ってしまった鶏の尿や糞が環境中に放たれたり、その環境下で育つ動物や植物、ペットを含む動物や水などの環境に触れる人間へ……という感じでどんどん感染していってしまうんです。 

この薬剤耐性菌の中にもいろいろな菌がありますが、最近では“スーパー薬剤耐性菌”と言われる、50%致死率の大変恐ろしい菌も出てきています。要は感染した2人に1人が死に至ってしまうということ。実はあまり知られていないだけで、日本では薬剤耐性菌で亡くなっている人たちは政府が発表する公式な数字で、毎年約8000人も!」

ADの後に記事が続きます

「有機卵」にはさまざまな厳しいルールあり!

doctor holding a syringe against the background of the poultry farm concept of antibiotics and hormones in chicken eggs and chicken meat, incubator
Henadzi Pechan//Getty Images

「恐ろしい菌をもたらす抗生物質の存在。そんな抗生物質を投与された鶏が産んだ卵を食べ続けていては、健康に良いわけがありません。一方、健康に良いオーガニックのスタイルで育てられた鶏の有機卵は病気予防や成長促進剤としての抗生物質使用がNGだったり、病気伝染予防の観点から広い土地で放牧するなど、さまざまなルールの上で収穫された卵です。 

土地が狭い日本では狭いケージに大量の鶏を詰め込んでいるため、病気が伝染するのもあっという間。感染してしまった鶏たちは殺処分を避けられず、その作業にも大幅なコストもかかるため、事前に抗生物質を投与して病気を予防するという背景もあります。そのやむを得ない状況を理解できますが、人の健康やアニマルウェルフェア、環境のことを考えたら、今のままで良いとは絶対に言えないと思うんです」

“買う”ことで有機卵の生産者を支える

farmer holding chicken and basket with egg
Inverse Couple Images//Getty Images

「ドイツでは自分の健康のためだけではなく、アニマルウェルフェア(動物福祉)のために、有機卵を選ぶ人も多んですよ。でも、日本では健康意識は高まっていても、アニマルウェルフェアへの関心はまだまだ。どのみち、有機卵を買いたいという人がいても、それが買える場所が非常に少ない現実があります。

そもそも、なぜ日本では有機卵の生産者さんが少ないのか? それは生産者さんが抱えている経済リスクが異様に高いからだと思います。例えば、どんなに熱い想いで有機卵を生産しても、売上に見合わないくらいの生産コストがかかったり、大規模養鶏では鶏1羽あたり、年間約330個の卵を産む反面、有機の場合は280個程度が限界で出荷量が大幅に下がってしまうなど……、さまざまな問題が生産者さんの財政を圧迫しています。

日本はヨーロッパのように有機生産者に潤沢な補助金が出るわけではないので、有機卵の生産者を救うか否かは消費者のみなさんの選択にかかっている部分が大きい。ぜひ、動物福祉や未来世代のために頑張る有機生産者を“買って支える”ことを意識してみてくださいね」

いつも当たり前のように食べていた卵について、いろいろと学べたはず。健康やアニマルウェルフェア、環境保護に関心がある人は、なつこさんがおすすめする“有機卵”をぜひ積極的に購入してみては? できることは小さくても、事実を知り、できることをコツコツと続けることが広がっていけば、世界が変わる道のりもそう遠くないはず。

【教えてくれた人】

なつこ

レムケなつこさん

レムケなつこさんオーガニック専門家。ドイツ法人オーガニックビジネス研究所IOB代表取締役CEO。慶應義塾大学経済学部卒業後、本場ドイツの大学院と食品研究所でオーガニックを研究開発。オーガニックセクターの国連IFOAM欧州本部リーダーシップ研修にて、日本人初として選抜される。20代でボリビアにてJICA⻘年海外協力隊、メキシコでJICA専門家として途上国の生産者支援に関わった経緯から、オーガニックに目覚める。現在はオンラインスクール運営、企業研修、コンサルティング、講演、執筆のほか、InstagramやYouTubeを通じてオーガニックに関するさまざまな情報発信なども行う。プライベートでは、夫と男児の3人暮らし。

YouTube:「オーガニック専門番組」

Instagram:@natsuko_bio

Text:ERI HAMADA

【これまでの記事はこちら】

何がいいの? オーガニック野菜を食べるべき本当の理由【エビデンスのあるオーガニック 第1回】

レムケなつこ流オーガニックコスメの選び方【エビデンスのあるオーガニック第2回】

調味料を変えれば体調が変わる? 専門家が明かす「調味料」の賢い選び方【エビデンスのあるオーガニック第3回】

Headshot of Kanna Konishi
Kanna Konishi
ウィメンズヘルス・副編集長

編集者として多くのメディアに携わったのち現職。健康オタク歴20年、趣味は"毒出し"で、体と心と部屋を効率よく整え、環境にもいい健康法を探るのがライフワーク。チアリーダー経験あり、勝手に人を応援しがち。仕事では「心から推せるものしか紹介したくない!」と目を血走らせ、常に情熱大陸に上陸中。 

Instagram: @editor_kanna_purico

オーガニック

proctology, coloproctology concept young man checks intestine colorful flat vector illustration

うんちの臭い人は要注意!? 菌ちゃん先生に聞く腸内環境の整え方

various colorful spices on wooden spoons

調味料を変えれば体調が変わる? 専門家が明かす「調味料」の賢い選び方【エビデンスのあるオーガニック】

Hair, Face, Beauty, Blond, Flower, Lavender, Lip, Purple, Eye, Spring,

もう毎月イライラしたくない! PMSに効くアロマはこれ!

natural cosmetic products for the care of skin and hair and herbs , plants ingredietns in petri dishes on pastel trendy green basill color of the year 2022 organic, bio cosmetics healthy concept with natural plants natural essential oils and organic cosmetics concept of an eco, supplement, cosmetics flat lay copy space close up

レムケなつこ流オーガニックコスメの選び方【エビデンスのあるオーガニック第2回】