SDGsや環境問題が話題にされる中、”オーガニック”に対しても以前に増して関心が集まってきている。とはいえ、なんとなく健康や環境に良いということはわかっていても、具体的にどう良いかは答えられないという人も多いのでは。ドイツ在住のオーガニック専門家・レムケなつこさんが、エビデンスのあるオーガニック情報を4回の連載を通して伝えてくれる。第1回目のテーマは「オーガニック(有機)野菜を食べるべき本当の理由」(以下「」なつこさん)

Q.オーガニック野菜を食べると、健康面でどんなメリットがあるの? 

A.さまざまな疾患のリスク軽減が期待できます 

「オーガニック野菜のみならず、オーガニック食品の摂取頻度が高い人は、アトピー性皮膚炎、アレルギー、妊娠高血圧症候群、奇形、肥満、生殖障害(不妊)、がん、脳障害(発達障害や精神障害、IQ低下も含む)の8つの疾患において、オーガニック食品を食べない人よりもリスクが軽減されるという研究データが出ています。オランダの研究では、オーガニック食品をよく食べている母親・子どもはアトピー性皮膚炎の発症率が36%低くなるという結果も。また、免疫向上も期待できます。

また、9年以上に渡ってイギリスで女性62万人に実施したアンケート調査では、オーガニック食品を日常的に食べている人は、ホジキンリンパ腫(血液のがんの一種)になる可能性が、食べない人に比べ21%低いという結果が出ているんです。がんの原因となるストレス、睡眠不足、食品以外で生活の中で暴露する有害化学物質などといった外的要因を完全に排除できない中で、21%も低いという数値が出たことは非常にすごいこと。少しでも確率が低くなるなら、私は迷わず有機食品に投資したいと思いますね。

それから、がんのリスクの軽減には、抗酸化物質の摂取量が影響すると指摘する研究者もいますが、同じ野菜でも、慣行農業で育てたものと有機農法で育てたものを比較すると、後者はがん細胞に対してより高い増殖抑制作用があるという結果が出たそう。オーガニックという学術分野はまだまだ新しく研究の数は限られていますが、健康面で数々の良いメリットが得られることが世界で確証されているんです」

Q.オーガニック野菜は環境にもいいってホント?

A.有機農法があたりまえになれば、世界を救える可能性も!

tea garden
Jin xing//Getty Images

「そもそも、今ある私たちの食生活や食糧生産スタイルは世界的に見て取り返しのつかない環境汚染、気候危機などをもたらしていて、その事実を知らない人も未だ多いもの。2014年国連は「高度な集約農業システム(簡単にいうと、現行の食料生産スタイルのこと)はもう限界に達している」と現代の食糧生産のあり方を批判しています。世界の研究者らによると、現行の食糧生産システムは、他にも、森林破壊や土壌劣化、水の枯渇、生物の絶滅、水や大気汚染などの深刻な環境問題の要因になっています。

気候変動の主要因は温室効果ガスですが、世界全体の温室効果ガス排出量の1/4以上は農林水産業が原因で排出されています。しかも、その80%以上が私たちの食糧生産活動に使われている事実。食糧生産活動とは、畜産や作物の栽培、牛を育てるための農地開発、森林伐採、養殖などが該当します。

イギリスのサセックス大学の研究者らが行っている研究で見えてきていたのは、蜂や蝶などの昆虫の生存数がこの10〜20年で、60%減少していること。主な原因は日本でお米の栽培によく使われている“ネオニコチノイド系合成農薬”です。このタイプの農薬はあくまでも一つの例で、一般家庭の食卓に並ぶ食事が作られる過程で数えきれないほどの環境負荷が引き起こされています。

ちなみに有機農法では合成農薬を農作物に散布するのはNG。害虫駆除に使用されるのはお酢、ハーブエキス、重曹、ニームオイルなど、多くはナチュラルなものです。そのため、農薬での生物の大量死などの被害はなくなり、生物保全、ひいては環境保護につながるわけです。『有機農法があたりまえの世の中にならない限り、世界は救えない』と言っている研究者がいますが、逆を言えば、有機農法があたりまえになれば、世界を救える可能性があるということ。消費者である私たち一人一人が有機農家を買い支えることで、環境保護に貢献することができ、社会を動かしていくことができると私は確信しています」

Q.気候変動ではどんな変化がある?

A.温暖化を食い止める脱炭素も有機農法が要に! 

温暖化 オーガニック レムケなつこ
Alan Majchrowicz

「気候変動でいうと、オーガニック研究のパイオニアである米国ロデール研究所によると、世界の耕作地が再生型の有機農法になれば、温暖化ストップに大きな効果が期待できるそう。そもそも、温室効果ガスの中で、影響が最も大きいのが二酸化炭素です。そこで、注目したいのが有機農法は二酸化炭素の排出量が少ない上に、農地が二酸化炭素吸収源となり大気に放出された二酸化炭素の量まで減らせる点です。

炭素は地球全体で量が一定に保たれていますが、かつて炭素は本来あるべき土や海、植物の中に留まっていたものが今は大気に彷徨っていて、結果的に温暖化に繋がっているんです。そんな事実を知り、さらに有機農法には、今ある環境危機を解決できるポテンシャルがあると知ったら、自ずと今後選ぶものが見えてきませんか?」

Q.メンタル面での良いことは? 

A.病気に脅かされる不安が軽減する

baby girl eating fresh organic yellow pepper from selfgrown garden
Guido Mieth//Getty Images

「オーガニック野菜を含むオーガニック食品を摂取することは、メンタル面にも良いことが。例えば、自分や大切なパートナー、家族の健康について、皆さんはさまざまな不安を持っていると思いますが、その不安がオーガニック食品に変えることで和らぐんじゃないかと思います。また、生きている限り、自分が環境にネガティブな影響を何かしら与えてしまうものですが、オーガニックライフを送ることができれば、環境にポジティブな影響をもたらせるはず。そんな状況により、結果的にはメンタルが前向きになれる可能性もアップするでしょう。私自身や800人近く集まる当校スクールの生徒さんたちはまさに、そのポジティブな循環の中にいることができています」

Q.日本はオーガニック意識が遅れている?

A.ドイツより20年遅れている印象

ドイツ オーガニック レムケなつこ
Chris Tobin

「日本とドイツとではまったく違います。私は14年前にドイツに来ましたが、その頃のドイツの環境にも今の日本は届いていない気が。ドイツは一般的なスーパーマーケットでさえ、ほぼすべての商品に対してオーガニック商品が並んでいます。野菜や卵などほとんどすべての食品に対してオーガニックのものがひとつはあり、ベビーフードではオーガニックではないものを探すほうがむしろ大変というほどオーガニックが主流化しつつあります。

日本とドイツで行われた世論調査が一般消費者の意識の違いを物語っています。日本でオーガニック食品が選ばれる理由は、“健康のため”という一択で、未だに”オーガニックは意識高い系でめんどくさい人の世界”、”セレブの嗜好品”などと思われがち。でも、ドイツではオーガニックを購入する理由のトップが、健康のみならず、環境保護やアニマルウェルフェア(動物福祉)、地元の生産者さん、未来の子どもたちのためとなっていることからも、関心度の違いなどが見てとれますよね」

Q.ドイツはみんな家庭菜園してるってホント?

A.自治体が推奨するほどポピュラー

father and son watering raised bed in garden
Tom Werner//Getty Images

「ドイツでは家庭菜園が大人気です。私が住む南ドイツの田舎では、高校生くらいまでの子どもがいて、お庭があるお宅なら、家庭菜園をやっていない家庭がないくらい、皆さんやっています。野菜や果物の栽培のほか、鶏やウサギなどの小動物を飼っている人も多いです。日本もコロナ禍で家庭菜園を始めた人も多いですが、ドイツの人たちは筋金入りですね(笑)。

ドイツではクラインガーテン(市民農園)というミニサイズの畑が全国にあります。1万5000以上あるクラインガーテン協会から、400万人以上の方がこのクラインガーテンを借りて、大都会に住んでいる人も家庭菜園やガーデニングを楽しんでいます。他にも自治体が広大な有機畑を所有し、市民に低額で貸し出し、有機農法を推奨しているケースもあります。

私自身は普段、野菜は自分の庭で育てたものを食べていますが、量が賄えない場合などは、地域の農家さんが育てた規格外野菜を買っています。すべて“オーガニック”のもので、時にはオーガニック最高峰と呼ばれるバイオダイナミック農法のものなどもあります。規格外野菜は驚きの形をしていることが結構あり、ときにはうさぎが齧った形跡がある場合も(笑)。私は常々、野菜も人間と同じでいろいろな形状、味があって良いと思っているので、そんな野菜もウェルカムです! 何より、オーガニックの規格外野菜って、不思議とすごくおいしいんですよね! 日本も最近は規格外野菜の取り扱い先が増えているので、皆さんもぜひ試してみてくださいね」

【教えてくれた人】

レムケなつこさん

レムケなつこ

オーガニック専門家。ドイツ法人オーガニックビジネス研究所IOB代表取締役CEO。慶應義塾大学経済学部卒業後、本場ドイツの大学院と食品研究所でオーガニックを研究開発。オーガニックセクターの国連IFOAM欧州本部リーダーシップ研修にて、日本人初として選抜される。20代でボリビアにてJICA⻘年海外協力隊、メキシコでJICA専門家として途上国の生産者支援に関わった経緯から、オーガニックに目覚める。現在はオンラインスクール運営、企業研修、コンサルティング、講演、執筆のほか、InstagramやYouTubeを通じてオーガニックに関するさまざまな情報発信なども行う。プライベートでは、夫と男児の3人暮らし。

公式HP

YouTube:「オーガニック専門番組」

Instagram:@natsuko_bio

Text:ERI HAMADA

Headshot of Kanna Konishi
Kanna Konishi
ウィメンズヘルス・副編集長

編集者として多くのメディアに携わったのち現職。健康オタク歴20年、趣味は"毒出し"で、体と心と部屋を効率よく整え、環境にもいい健康法を探るのがライフワーク。チアリーダー経験あり、勝手に人を応援しがち。仕事では「心から推せるものしか紹介したくない!」と目を血走らせ、常に情熱大陸に上陸中。 

Instagram: @editor_kanna_purico