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仕事でもプライベートでも、私たちの生活は情報だらけ。そのせいか、無意識のうちに私たちは外からの刺激を求めがち。たまには心の内側に意識を向けてみてはどう?

不安やストレスなど外からの刺激で重たくなっている心を、少しだけ軽くする方法としておすすめなのは、写経。今回は「写経体験!!」を提供する臨済宗妙心寺派東京禅センターの部員であり、円光寺の副住職である中山宗祐さんに写経の取り組み方について話を聞いてきた。

写経はどうやって始まったの?

お経とは、お釈迦(しゃか)様が『生きていく上での苦しみとの向き合い方』を説いたもの。「2,500年ほど前のお話です。お釈迦様がいた時代は文字がなく、すべてが口伝(くでん)でした。そうして2,000年ほど前にようやく文字で残す文化ができて、お釈迦様の言葉を文字に起こすようになった、というのがお写経のおよその始まりです。

たくさんのお経がある中で、「弘(ひろ)めると功徳がある」とされるお経があり、写経を通してそれを多くの人に、分かりやすく広める運動が始まったと言う中山さん。日本でも国家繁栄や家内安全などのご利益があるとされ、写経が広まっていったのだとか。

せかせかと書きなぞらなくてもいい。自分のペースで行う写経の取り組み方

東京禅センターが行っている写経体験は、約80分。20代から70代の方まで、幅広い年齢層の方が参加されるそう。まずは簡単に写経の説明や写経の取り組み方を聞き、その後お経が薄く書かれた紙に筆ペンでお経をなぞっていく、というのが簡単な流れ。

写経の内容は、「般若心経」と「白隠禅師坐禅和讃」の二つから自由に選べるようになっている。

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「般若心経」は、空(くう)の思想からきているものだと説明してくれた中山さん。「私たちが見ているものは実体がないものです。例えば私たちの体や五感にも実体がない。こういった実体がないものに心がとらわれてしまうと、苦しみが出るといったお話です。簡単にいうと、『こだわらない、偏らない、とらわれない心で私たちの生きている社会を見ていきましょう』といったメッセージを込めたお経です」

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一方で「白隠禅師坐禅和讃(はくいんぜんじざぜんわさん)」について、中山さんはこう教えてくれた。「水はどんな器に入ってもその形に合わせてきれいに収まることができますが、氷は容器の形には収まってくれません。私たちの心も一緒です。心ががちがちに固まっているときは、どんな場所に置かれても、その場所にうまく順応することができないものです。それに氷と氷がぶつかり合えば、相手を傷つけてしまうこともあるでしょう。でも氷と水は同じものです。ですから、がちがちになった心を溶かすだけで、相手を受け入れることができるようになります。置かれた環境にもうまく順応することができます。そういった内容のお経です」

いずれもそこまで長くはなく、ほとんどの方が30〜40分で書き終えるそう。とは言え急いで書く必要は全くなく、書き切れなかった場合には、「自宅へ持ち帰っていただくこともできます」と中山さん。合わせて企業研修などで座禅と組み合わせて行う方や、その他を希望する方には10分ほどで終えることができる、短いお経の用意もあるそう。

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写経を行う上でのポイントは、「身体・呼吸・心を調える」

写経はまず姿勢を正し、呼吸を調えるところから始まる。「坐禅と同じなのですが、腰をぐっと入れた状態で背筋を伸ばし、正しい姿勢で書いていきましょう、とお伝えしています。呼吸はゆったりとしたものに調えていただいてから、写経を始めてもらいます。そうすることによって心が自然に調っていきます」

ちなみに写経をしている間、集中力が途切れてしまったら「無理な状態で続けるのではなく、いったん呼吸を調えてから、また始めていただいて大丈夫です」と中山さん。

また、お経を書き写していく上で大切にしたいのは、「丁寧に書き写す」という点。「自分が今まで生きてきた年数で書いてきた字は、我が一番出やすいとされています。そのため字を丁寧に書き写すことは、一つ一つ自分の我を直していくこと、ととらえています。写経では『我をなくすこと』も重要な点なのです」

不満とは、何かを得ようとするから生まれてしまう。たまには何かを「捨てて」みよう

私たちは普段の生活で何かを得ることには慣れているけれど、捨てることには慣れていない、と中山さん。
「電車の中、お風呂に入っているとき、寝る瞬間までずっとスマートフォンを見ている人が非常に多いと思います。外からの情報を得たり、人からの評価を得たり、外に向かって求め続けている状態に傾倒しがちです。こういったものをいったんシャットアウトして、自分自身の内側に意識を向ける時間がお写経です。私たちがよくいうのは、何かを得るためにお写経をするのではない、ということです。お経をなぞるごとに不安や怒りなど心の揺れに気付き、一つ一つ余計な感情を『捨てていくこと』を重視するようお伝えしています」

もともと私たちは穏やかな心を持っているのに、忙しない生活の中で余計なものを自ら詰め込んでしまっている。それを一つ一つ丁寧に外していく写経は、いわゆる書く瞑想。「100回写経をしたからきれいになると考えるのではなく、自分のもとある姿に戻るために心の掃除をしてあげるという感覚です」

今年は「得る」ことからは一歩離れ、写経を通して「身を軽くする」時間も作ってみては?

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■ 今回お話を伺ったのは……
中山宗祐(なかやま・そうゆう)さん
花園大学文学部国際禅学科卒業。平林寺専門道場にて修行、現在は臨済宗妙心寺派東京禅センター部員の傍ら、円光寺(東京都台東区根岸)の副住職を務めている。

■東京禅センター
住所:東京都世田谷区野沢3-37-2 龍雲寺会館
アクセス:田園都市線 『駒沢大学』下車 徒歩15分
東横線 『学芸大学』下車 徒歩15分
公式サイト:https://www.myoshinji.or.jp/tokyo-zen-center