私たちにとってとても大切な部位であり、ライフステージにもずっと関係する膣。ところが近年、膣の機能低下が叫ばれるようにもなった。これは一体、なぜ？ 出産だけにとどまらない膣の機能とチカラ。今、あらためて知りたい「膣力」のアップのために、ウィメンズヘルスは最近の膣事情に注目！ 第1弾では30代にも増えている尿漏れについて、尿漏れ治療の第一人者であるドクターに話を伺う。
くしゃみや咳をした後、「あっ！」と思う瞬間、感じたことない？ 「この歳で、まさかの尿漏れ!?」とショックを受け、誰にも打ち明けられず悩んでいる人は意外と多いという。
「そう、尿漏れというと、高齢者のトラブルだと思っている人がとても多い。でも、実際には20代で悩んでいる方もいます。特に、出産を経験した人は早くから悩みが出るケースが多く、30代でも30％以上、40代になるとなんと3人に1人が悩んでいます。
しかも悩みが悩みなだけに、相談できず一人で悩んでそのままにしている人が多い現状があります。尿漏れは年齢と共に進行するので、放置すればするほど悪化する可能性は高くなります。恥ずかしいと封印せずに、早めに対処することが実は大事なのです」と言うのは、女性の尿漏れ治療の第一人者でもある、女性医療クリニックLUNAグループ理事長の関口由紀先生。関口先生は、通常はLUNA骨盤底トータルサポートクリニックで診療にあたる。
あなたはどのタイプ!? 尿漏れは大きく2タイプ
尿漏れのタイプは、大きく2タイプに分けられると関口先生は言う。
腹圧性尿失禁
くしゃみや咳、笑ったり、重たいものを急に持ったり、びっくりしたとき、椅子から立ち上がったときなどに、少しだけ漏れてしまう。30代前後でも発症する人は多い。
切迫性尿失禁
急激な尿意に突然襲われ、トイレにたどり着く前に下着を汚してしまうということも。腹圧性尿失禁に比べると、年齢が高い人がなりやすい。
混合型尿失禁
腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の2つの症状がある。両方を併せ持つ場合。
「切迫性尿失禁は、過活動膀胱という病気の一症状で、膀胱が過活動状態になっていたり、膀胱と脳の神経の連携がうまくいかず、トイレが間に合わないことで起きてしまいます。
発症年齢はやや高めです。ただ、切迫性尿失禁も腹圧性尿失禁も症状は微妙に異なりますが、共通しているのは、“骨盤底（こつばんてい）”のゆるみが大きな原因になっていることです。
骨盤底は骨盤の底にある筋肉群や靭帯の集まったプレート部分で、恥骨から肛門の後ろにある尾骨の間に、ハンモックのようについています（下イラスト）。骨盤底を構成する主要な成分が、骨盤底筋群（こつばんていきんぐん）です。この骨盤底があるおかげで、骨盤の中に収まっている膀胱や子宮、膣や腸などが下がってこないで収まっているのです。また、出産のときに胎児を押し出す機能、尿や便などを排泄する機能などにもこの骨盤底が深く関与しています」
ところが、この重要な骨盤底が衰えたり、ダメージを受けたりすると、尿漏れなどの困った症状がいろいろ発生してしまうそう。
「出産のときに骨盤底の筋肉群が損傷して、それが原因で骨盤底の機能が衰えてしまうことはよくあります。また、女性ホルモンの低下なども影響すると考えられています。さらに、デスクワークばかりの座りっぱなしの生活、運動不足も骨盤底の機能低下に関係しています。また、肥満の人も骨盤底に負担がかかりやすいので、気をつけたいですね」
ちょっとびっくりしてしまう症状だけど、自分では気づかないケースも多く、検診などで指摘されることもあるという。
「尿漏れは軽度や中度であれば、骨盤底筋の筋力をアップし、骨盤底の機能を回復してあげるだけで改善できるケースも少なくありません。骨盤底筋は、意識しないと鍛えられない部分。特に女性は長く付き合っていく臓器を支えていく筋肉群なので、この骨盤底筋にも着目してみることが大事です。
ですが重症な尿漏れには、重大な脳・脊髄・骨盤内の疾患が隠れていることもあります。最近では、女性専門の泌尿器科も増えているので、そうしたところで一度検査してみることをお勧めしたいですね」
Photo:Getty ImagesIllustration:Kanao Enami（asterisk-agency）Text:Manabi Ito
横浜市立大学客員教授、日本泌尿器科学会専門医、日本東洋医学会専門医、日本排尿機能学会専門医、日本性機能学会専門医。女性の泌尿器科治療の第一人者。尿漏れなど相談しにくい部分の悩みを根本から治療するプログラムを提案している。『ちょびもれ女子のための「あ!」すっきり手帖』（主婦の友社）、『女性外来の骨盤底筋トレーニング』（宝島社）など著書も多数。LUNA骨盤底トータルサポートクリニック http://www.luna-clinic.jp
