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ドラマや映画でもよく登場し、欧米ではポピュラーになっているという「卵子凍結」。アメリカのフェイスブック社とアップル社では、卵子凍結が福利厚生の一環になっているともいう。日本でも耳にするようになった卵子凍結は、仕事が忙しく、今すぐ結婚予定がない私たちにとって、救世主になるのか。専門医に、意外と知らない卵子凍結の“リアル”を伺った。

前回、現在結婚の予定がなく、忙しい毎日を送っている女性たちの“お守り的存在”になりつつあると、卵子凍結について教えてくれた杉山産婦人科の理事長、杉山力一先生。しかし、女性の意識と医療の現場にはギャップを感じるという。

「卵子凍結についてお問い合わせをいただく女性たちの年齢を見ると、35~40代前半がとても多い。みなさん、一生懸命お仕事をされて、年齢的にこのままでは妊娠の可能性がなくなってしまうかも、と卵子凍結を考え始めるようです。しかし実のところ、卵子凍結は何歳でもできるわけではないのです」

卵子は数が減るだけでなく、“老化”する!

前回、卵子の数が年齢とともに激減するという事実を紹介した。が、卵子は数だけでなく、質も年齢とともに変化するという。例えば、形がいびつだったり、受精しない卵子であったり、ということが増えていく。

「若い世代の卵子に比べて、高年齢になるほど、卵子の受精率は低下します。卵子解凍後に卵子が生存し受精(顕微授精)して、受精卵が良好な場合の1個あたりの妊娠率は、30歳以下で35%程度、31~34歳で30%程度、35~37歳で25%程度、38~39歳で20%程度、40歳以上で15%以下と、年齢を追うごとに低下していきます。また、未受精卵解凍後の卵子生存の確率については事例が少ないので、正確なデータはいえませんが、各所の報告などを集めると、生存率は40~70%程度。そう考えると、年齢によっては卵子凍結での妊娠出産は、確実な方法とはいえない部分もあるのです」

卵子凍結を考えるなら、早めの決断が大切

年齢が上がれば上がるほど、妊娠率は下がる。杉山先生のクリニックでもそうだが、卵子凍結をするには、年齢制限を設けているところが多い。

「当医院では、採卵は満40歳の誕生日まで。未受精卵を預かる期間は満45歳の誕生日までとしています。安全な妊娠出産を考えると、この年齢設定は必要だと考えています。代理出産などで50代・60代の女性が、娘の代わりに出産するというニュースなどはあります。確かに、健康な母体であれば出産が可能なこともありますが、それでも年齢を重ねれば体には負担がかかるのであまりおすすめできません。採取した卵子を長く保存することは可能ですが、さまざまな健康リスクを考えると40代にはおすすめできないというのが正直なところです」

妊娠率を高めたいと考えるなら、卵子凍結は30代前半までに決断したほうがいいと杉山医師は話す。また、日本の場合は、自分の卵子を使って受精を行うには、原則として婚姻関係か内縁関係の精子提供者が必要になる。ネットなどで怪しい広告を見かけるが、アメリカのように精子バンクは認められていない。

こういった実態を踏まえて、私たちは卵子凍結や将来の妊娠出産について、どう考えるべきなのか。次回は杉山先生に「女性のライフプラン」についてお話を伺う。



Photo: Getty Images Text: Manabi Ito

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杉山力一先生
杉山産婦人科 理事長

医学博士。1994年、東京医大を卒業。生殖医療に従事し、1999年北九州セントマザーに国内留学。体外受精の基礎を学ぶ。実家の分娩施設、杉山産婦人科に併設し、2001年に不妊治療専門の杉山レディスクリニック開院。2007年に分娩、生殖医療・内視鏡手術を行う総合施設、杉山産婦人科世田谷を開院。2011年、杉山産婦人科丸の内 開院。2018年、新宿駅からすぐの場所に「仕事をしながらでも通院できること」をコンセプトとした新宿院を誕生させる。 https://www.sugiyama.or.jp/shinjuku/