植物性の食生活をスタートする前に知っておきたいこと
「植物ベースの食生活」というコンセプトは古くからあるけれど、2019年に入ってからは、その勢いが一気に増した。イ....
「植物ベースの食生活」というコンセプトは古くからあるけれど、2019年に入ってからは、その勢いが一気に増した。インスタグラムには、カラフルな野菜をミックスした植物ベースのさつまいもナチョスが溢れ、ビヨンセは、植物中心の食生活へ転向するファンにコンサートチケットを無料でプレゼントしている。植物性の食生活が、これほど流行った時代は過去にない。アメリカ版ウィメンズヘルスが植物性の食生活について詳しく教えてくれた。
植物ベース=ヴィーガンではない
植物ベースの食生活とは、文字通り、植物性食品を優先して食べること。でも、その言葉の解釈は、人によって若干違う。
人気ベジタリアンブログ『Hummusapien』のライターで公認管理栄養士のアレクシス・ジョセフによると、「植物ベースの食生活とは、ビタミン、ミネラル、食物繊維、抗酸化物質、ヘルシーな脂質を豊富に含む自然食品を中心に食べることを意味する」。つまり、ほとんど加工されていないフルーツ、野菜、全粒穀物、豆類、ナッツやシードが食生活の大部分を占めるということ。
ヴィーガンは植物ベースの食事法の一種だけれど、ヴィーガンにならなくても植物ベースの食生活は送れる。しかも、ヴィーガンでは動物性食品が全てカットされるのに対して、植物ベースの食生活では、それほど制限が多くない。(ちなみに、ヴィーガン食品なら必然的に植物性とは限らない。卵不使用のブラウニーはヴィーガンかもしれないけれど、加工された原材料がたくさん使われていれば、植物ベースのスイーツとは言えない)
「私の場合、食べる物のほとんどが植物性だから、植物ベースの食生活を送っていることになる」とジョセフは続ける。「でも、食べたくなれば、ヨーグルトもチーズも卵も魚も食べる。それでいいのよ」
米コーネル大学の栄養心理学教授、デイヴィッド・レヴィツキー博士は、「植物ベースの食事法を “食事制限の厳しいダイエット” ではなく、“植物性食品の摂取量を増やすためのテンプレート” として考える」よう促している。
多くの人にとって、これは今までよりもヘルシーな食べ方。ジョセフも「以前は、ヴィーガンじゃない食べ物が欲しくなるたびに、不正を犯しているような気分になった」そう。「今振り返ると、あれは病的な行動だった。今の私は、自分の欲求を尊重しながら食事をしている。体のニーズは毎日違うものなのよ」
植物性食品を選ぶ理由
まず、植物性食品には健康上のメリットが多い。公認管理栄養士のエイミー・ゴリンが言うように、「植物ベースの食生活の中心にあるのは、野菜、フルーツ、穀物、ナッツ、シード、豆類」。つまり、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質、食物繊維がたっぷり詰まった食材を全て食べることになる。
ジョセフも、「植物性食品には、免疫システムを支え、炎症と戦い、腸内の善玉菌のエサとなる食物繊維と植物性栄養素がいっぱい」と同調する。
動物性タンパク質の代わりに植物性タンパク質を摂ることにもメリットがある。ジョセフいわく、「動物性タンパク質ではなく、植物性タンパク質が豊富な食材を定期的に食べれば、糖尿病や心臓病をはじめとするさまざまな慢性疾患の予防や治療に役立つ」。植物性栄養素は、コレステロール、血圧、血糖値を正常に保つのも助けてくれる。
動物性食品の削減は、環境にも大きな利益をもたらす。ジョセフによると、「もっと植物性食品を食べるようにすれば、二酸化炭素の排出量が減る。家畜の生産が占める世界の温室効果ガス排出量の割合は、かなり大きい」。また、「1食分のお肉よりも、20食分の野菜に由来する温室効果ガスの方が少ない。お肉の中で温室効果ガスの排出量が最も多いのは、牛肉とラム肉」
ダイエットのために植物ベースの食生活を始める人もいる。植物性食品には、お腹を満たす食物繊維と、食後の満足感を与える高カロリーの脂質が豊富なので、カロリー管理さえ怠らなければ、効果は見込めるかもしれない。レヴィツキー博士が指摘するように、体重を減らす唯一の方法は、摂取するカロリー量を体が燃やすカロリー量より少なくする(俗に言う “カロリー不足” の状態を作り出す)こと。
Text:Christine Byrne Translation:Ai Igamoto Photo:Getty Images
植物からでも栄養は十分摂れる
植物性食品中心の食生活では栄養(特にタンパク質とオメガ3)が不足しがち、という声があるけれど、全くもって心配無用。ゴリンによると、「時々クリエイティブになればいいだけ」
ゴリンいわく、タンパク質をできるだけ多く摂るには、粉チーズの代わりにニュートリショナル・イースト(乾燥酵母)をパスタにかけたり、スムージーに白豆やレンズ豆を入れたり、ナッツやナッツバターをそのまま食べたり、スイーツや料理に加えたりするのがいいそう。動物性食品には「完全タンパク質」が含まれているのに対し、植物には「不完全タンパク質」しか含まれていないので、幅広い食材を使うことが大切。いくつかの異なる食材から植物性タンパク質を摂取すれば、健全な身体機能をサポートする必須アミノ酸が全て摂れるようになる。
でも、十分なタンパク質を摂ることに、それほど躍起になる必要はない。ジョセフが言うように、「タンパク質は、お肉以外の食品にも含まれている」
「豆類、全粒穀物、フルーツ、野菜、ナッツ、シードをバランス良く取り入れた自然食品と植物中心の食生活を送っていれば、カルシウムやタンパク質といった栄養素を1日に必要な分だけ摂るのは簡単」
つまり、高カロリーの加工食品に頼るのではなく、こういった自然食品をたくさん食べることが大切。
植物ベースの食生活では、鉄分に気を配る必要もある。ゴリンによれば、「ホウレン草やトマトなどの野菜に含まれる植物性の鉄分よりも、動物性食品に含まれているヘム鉄の方が体に吸収されやすい」。でも、「ホウレン草サラダにレモン果汁をかける」などして、その食材をビタミンCと一緒に摂れば、植物性の鉄分が吸収されやすくなるそう。
いろいろな植物性食品を組みわせるのもシンプルかつ有効な手段。レヴィツキー博士いわく、「多種多様な植物を食べていれば、栄養不足になることは滅多にない」
ゴリンの話では、サプリメントも役に立つ。「ビタミンB12の供給源は主に動物性食品なので、このビタミンのサプリメントを飲んでみるのはいいかも。EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったオメガ3脂肪酸のサプリメントもおすすめ。こういったオメガ3脂肪酸は、脂ののった魚由来のものが多いけれど、藻由来のオメガ3脂肪酸を使ったヴィーガンのサプリメントもある。私自身も飲んでるわ!」
植物ベースの食生活に適さない人もいる
植物ベースの食生活は、大多数の人々にとって安全かつヘルシーなもの。でも、食生活に大きな変更を加えるのは、医師か公認管理栄養士に相談してから。
ジョセフの経験からして、「摂食障害になったことがある人は、食品群を丸ごと除くような食べ方をするべきではない。植物ベースの食生活も、一歩間違えれば食事制限のあるダイエットとして誤用されかねないから」
あなたも摂食障害の経験者? 植物ベースの料理を試してみるのはいいけれど、厳しいルールや食事制限を設けたり、「自分の食べ方はこうだ」と決めつけたりするのは、たぶんやめた方がいい。
植物ベースの食生活に転向するなら、一歩ずつ着実に
「最初は簡単なことから始めるようアドバイスしている」というジョセフ。「1日で食生活をガラッと変えると、どうしようもない気分になるし、続けられる可能性も低くなる。極端なことをするよりは、小さな変化を毎週2つずつ起こしていこう」。ジョセフが言うように、牛乳を砂糖・乳製品不使用のミルクに替えてみるのも最初の一歩。
また、植物ベースの食生活を始めたからといって、動物性食品が一生食べられないわけじゃない。「あれもこれもやめることばかり考えるのではなく、どうすれば食生活が向上するかを考えてみて」とジョセフは続ける。「これまでの研究結果は、フレキシタリアンの食生活(植物性食品を増やしつつも動物性食品は排除しない食べ方)でも、心臓病や糖尿病のリスクが下がるなど、(ベジタリアンと)似たような健康効果が得られることを示している」
最後になるけれど、「お肉なしの月曜日」運動が流行っているのは、1週間に1日だけお肉(または全ての動物性食品)をカットするのが比較的簡単だから。ジョセフによれば、これだけでも環境保全とあなた自身の健康維持に対する絶大な効果が期待できるそう。