ヴィクトリア・ベッカムも悩んだ、「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」の症状と治療法
卵巣で男性ホルモンが多く作られてしまうため、排卵しにくくなる「多嚢胞性卵巣症候群」は、不妊の原因にもつながる注意すべき病気。
月経の周期が長すぎる。ひどいニキビがなかなか消えない。顔に毛が生える。理由もなく体重が増える。卵巣で男性ホルモンが多く作られてしまうため、排卵しにくくなる「多嚢胞性卵巣症候群」は、不妊の原因にもつながる注意すべき病気。その症状が「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」であるかを判断する方法や、治療法など、気になることをUK版ウィメンズヘルスが解説してくれた。
「多嚢胞性卵巣症候群」は女性の5人に1人が抱える病気。ヴィクトリア・ベッカムも、イジー・リドリーもその一人。昨年8月には、UK版「ウィメンズヘルス」のコラムニスト、アリス・リヴェインも「多嚢胞性卵巣症候群」であると診断されたことを明かした。
そもそも、「多嚢胞性卵巣症候群」って実際何なの? この病気の症状、診断、治療に関して知っておくべきことをまとめてみた。
多嚢胞性卵巣症候群とは?
まず、これだけはハッキリさせておこう。「多嚢胞性卵巣症候群」は嚢腫と一切関係がない。つまり、「多嚢胞性卵巣症候群」が卵巣癌を引き起こすこともない。そして、多嚢胞性卵巣だからといって、「多嚢胞性卵巣症候群」を患っているとも限らない。ここからは専門家に任せよう。
栄養学者のクレア・グッドウィン (thepcosnutritionist.com) によると、「多嚢胞性卵巣には “嚢胞” があるけれど、これは実際には女性の排卵時に自然発生する卵胞。排卵しないと、卵胞が卵巣内に閉じ込められて多嚢胞化してくる。そのため、多嚢胞性という言葉が使われる。多嚢胞性卵巣は通常の2倍の量の嚢胞を擁するのが一般的で、多嚢胞性卵巣症候群にかかっていなくても、女性の25%の卵巣は多嚢胞」
「多嚢胞性卵巣症候群は、アンドロゲンホルモン (テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオンなどの男性ホルモン) が過剰に生産された時に生じる病気。排卵が不規則になるか一切なくなり、卵巣が多嚢胞化する」
他の “症候群” と同様に、「多嚢胞性卵巣症候群」の原因や症状は様々だが、どのケースにも共通するのは遺伝子。「多嚢胞性卵巣症候群は家系で遺伝する」 と語るのは、英国産婦人科学会の代表および英国不妊学会の議長を務めるアダム・バレン教授。「身内に多嚢胞性卵巣症候群の女性がいれば、あなたも発症するリスクが高くなる」
インスリンも要因の一つ。「多嚢胞性卵巣症候群の女性の多くはインスリンに抵抗するので、これを補おうと体が余分なインスリンを生産する」 とバレン教授は続ける。「これによって、卵巣でテストステロンが過剰に作られ、卵胞の発達や正常な排卵を妨げる」。これがサイクルの始まり。
Text: Emma Pritchard Translation: Ai Igamoto Photo:Getty Images
「多嚢胞性卵巣症候群」の治療
「多嚢胞性卵巣症候群」を完全に治す方法は、まだ見つかっていない。でも、希望は失われていない。なぜなら、多くの女性によって、ライフスタイルを変えれば、症状を改善し食い止めることができると証明されているから。
でも、ほとんどの女性に与えられる最初のオプションは薬。不規則な生理を規則的にするためには、低用量で抗アンドロゲン作用のある経口避妊薬が勧められる。ニキビや、顔・体の過剰な毛を改善するためには、2型糖尿病の治療で頻繁に用いられ、インスリンや血糖値を下げる「メトホルミン」が一般的。妊娠を望む女性には、排卵を促すために「クロミフェン」が使われる。
グッドウィンは、彼女の症状が眠ったように安定した状態にあるのは、薬よりもナチュナルな方法を用いたおかげだという。「多嚢胞性卵巣症候群の発症に、遺伝が絡んでいるのは確か。でも、遺伝子は環境要因によってオンオフの切り替えができるもの。多嚢胞性卵巣症候群の遺伝子を持つ人は、正しい環境要因が揃った時にその病気を発症しやすい。つまり、遺伝子を呼び起こしてしまう環境要因さえ取り除けば (根本的な原因を治せば)、アンドロゲンホルモン値が正常化し、多嚢胞性卵巣症候群の症状が改善されることもある」
一晩で治るものではないけれど、我慢強い女性のもとに朗報は訪れる。「その秘密は、あなたに悪影響を与えている要因を見つけることにある」 とグッドウィン。
「多嚢胞性卵巣症候群」の背後にある要因を特定するには、血液検査からはじめてみるのがおすすめ。
現代医療では、「多嚢胞性卵巣症候群」には5つのタイプがあると言われている (複数のタイプに当てはまることもある)。
1.インスリン抵抗性多嚢胞性卵巣症候群
「多嚢胞性卵巣症候群」を抱える女性の70%には、インスリン抵抗の兆しがある。インスリン抵抗は、高い血糖値が長期間続くことで引き起こるもの。プロテインボールの食べすぎやエナジージェルの飲みすぎだけが原因とは限らない。
2.炎症性多嚢胞性卵巣症候群
単なる炎症がインスリン抵抗、そしてゆくゆくは「多嚢胞性卵巣症候群」の引き金となることもある。また、血糖値が高くなくても、アンドロゲンのレベルが上昇して排卵が止まることはある。体に合わない物を食べたり、胃腸の健康状態が悪かったり、環境毒素やストレスにさらされたりすることが原因。
3.ストレス性 (副腎の) 多嚢胞性卵巣症候群
「多嚢胞性卵巣症候群」を抱える女性の50%には、副腎アンドロゲン (デヒドロエピアンドロステロン) が多すぎる。これにはハードなトレーニングのやりすぎなどによる身体的ストレスだけでなく、心理的ストレスも関係している。アンドロゲンと同様に、ストレスホルモンのコルチゾールや、プレッシャーがかかると分泌されるアドレナリンも常に疲労を感じる原因に。
4.他の疾患が引き起こす多嚢胞性卵巣症候群
「多嚢胞性卵巣症候群」は、甲状腺関連の疾患が原因となって発症することも。「多嚢胞性卵巣症候群」を抱える女性の最大25%がこのケースにあたる。
5.経口避妊薬による多嚢胞性卵巣症候群
経口避妊薬は、排卵を止めることで脳と卵巣の間のコミュニケーションを阻害するだけでなく、インスリン感受性を30%も低下させるため、インスリン抵抗の原因となる可能性がある。また、経口避妊薬は黄体形成ホルモンの慢性的な増加を引き起こすので排卵が止まる。
推定される原因が特定できたら、行動を起こすとき。グッドウィンは、栄養バランス、エクササイズ、睡眠を最適化し、ストレスと環境毒素を取り除くよう勧めている。「多嚢胞性卵巣症候群は一種類ではないので、症状を管理する方法も一つではない。友達には効果のあった方法が、あなたにも合うとは限らない。私たちは一人一人、みんな違うから」