低山だと日帰りだし、大した装備はいらないと思いがちだけど、そう思い込むのは危険と片井先生は言う。
「もちろん、何事もなく帰れることが多いかもしれません。ただ、山では何が起こるかわかりませんし、何と言っても携帯電話などの電波が悪く、連絡手段が非常に乏しいという特殊性を忘れてはなりません。
低山で安全と思っていたのに、道に迷ってしまった。天気が悪くなったので退避していたら、下山が遅れてしまった……。下山が遅くなると、登山道はあっという間に日が暮れて道が見えなくなります。
街にいれば街灯があり、道が照らされているのが当たり前ですが、山には街灯はありません。夜になれば「まさに一寸先は闇」となり、身動きが取れなくなってしまいます。そんなときには、頭にベルトで付けるヘッドライトが有効です。
また遭難時には、ヘッドライトで自分の所在を知らせることも可能です。ヘッドライトは山で万が一のときの必需品です。たとえ日帰りの知っている山でも、低山でも、安全のため必ず持つことをおすすめします」
山で道に迷ったときに頼りになるのが、地図。分岐点にある道標だけを頼りにしていると、自然の中にあるものなので表示が消えかかっていたり、方向がずれている場合もないわけではない、と片井先生は指摘。
「遭難時に警察へ救助を求める際には『現在、どこにいるのか?』と必ず尋ねられます。しかし、地図が無ければ、自分の位置が全く分からず、説明しようにも「山の中です」や「木が見えます」だけでは探しようもありませんよね。そのためにも地図を持参し、自分の場所を要所で確認しながら登ることは、山での命綱のようなものです。
『でも、地図なんて読めないし……』という人もいると思いますが、書店に置いてある2万5,000分の1の登山用地図は、例えば昭文社『山と高原地図®』のようにポケット版で販売されています。この地図には登山ルートや標高、各ポイント間の所要時間の目安、危険箇所などの情報が初心者にも分かりやすく記載されていて、誰でも分かるようになっています」
「大切なことは、いざ道に迷ってから地図を見るのではなく、出発時、休憩ポイント、分岐部などの要所要所で、道標と共に必ず持参した登山用地図も確認するクセをつけることです。そうすることで、分岐の表示などの見逃しを予防できます。もし道に迷った場合でも、地図と道標が合っていた場所まで戻ることで遭難を防ぐことができます。
さらにステップアップを目指す方は国土地理院の2万5,000分の1地形図に磁北線を引き、プレート付きのコンパスを使って、地図読みができる方に教わりながら登山してみましょう。自分のいる位置やルートが正確に分かるようになり、きっと感動しますよ」
■お話を伺ったのは……
片井みゆき(かたい・ゆみき)先生
東京女子医科大学本院 総合診療科・女性科(女性内科) 准教授。信州大学医学部、同大学院医学博士課程修了後、同大医学部附属病院内分泌科へ。その後、ハーバード大学医学部フェローなどを経て、東京女子医科大学にて性差医療の現場で治診療を行う。内分泌代謝専門医、甲状腺専門医、女性ヘルスケア専門医として女性特有の疾患などに詳しい。また、北アルプスが近くにあった大学時代から登山を始め、山岳診療や救助に携わる山岳医の資格も持っている。