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心と体のヘルシーと幸福を真剣に見つめ、プロにアドバイスを伺う連載。今回は、怒りや嫉妬などのネガティブな感情がコントロールできないというお悩みにフィーチャー。心のプロである川野泰周先生が、怒りと、怒りをコントロールする脳の仕組みから解説。そこには、古くからヒトに備わっていた脳のとある部位と、進化することで獲得した新しい脳の部位が関係していた! 怒りとうまく付き合うために川野先生がアドバイスする3つのStepとは。怒りや不満がたまりやすい現代人の心の処方箋、今回も必読!

【今回のお悩み】
嫉妬や怒りがコントロールできません……。
爆発しがちな感情、どうにかなりませんか?

【ANSWER
3つのステップで、怒りのテンションを
「理性のテンション」に変えていくことが大事です

怒る部位と、理性で怒りをコントールする部位。脳の中で役割分担が違う

怒りの感情が押さえられない、どうにかして怒りをコントロールできるようになりたい。巷では、“アンガーマネージメント”という言い方で、話題になっています。

そもそも怒りはどうして起こるのか、簡単にお話ししましょう。怒りや恐怖、不安といった感情が動く時に、脳の深いところにある大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)の扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる部分が活発に動くことが分かっています。この部分は、「旧皮質」、つまり古い脳と呼ばれている部分で、人間の本能的な部分を司っています。例えば、向こうから敵が来たから逃げよう、威嚇しようというような形で反応する部分なのです。

でも、私たちは本能だけではない部分でも行動しています。例えば、苦手な人が前を通っても、逃げたり威嚇したりせず、怒りの感情を我慢して「こんにちは」と接することができます。これは古い脳の外側を覆っている「大脳皮質(だいのうひしつ)」、つまり新しい脳と呼ばれる部分が働いているからです。前頭葉には、感情をコントロールする機能があり、理性的にコミュニケーションを取ろうと働いてくれます。

この微妙な脳の働きのやり取りが怒りの感情を生んだり、鎮めたりしてくれています。

怒りを収めるには「3つのステップ」で対応しましょう

怒りに関係する扁桃体は目の前で起きた事象にすぐに反応するため、イライラはすぐに沸点に到達しますが、怒りをコントロールする“理性”の前頭葉は、その一瞬あとのタイミングで働くとされています。ですから怒りの感情だけですぐに動くと、前頭葉の理性がまた働いていないので、暴走してしまうことがあります。といっても、怒りの感情はなかなか冷静に慣れないものです。次の3つのステップで、“怒りを観察”してみるといいでしょう。

Step1 自分が感じている怒りを「数値化してみる」
数値化することで、自分の怒りを客観視します。いつもに比べて67%ぐらいとか、ものすごく頭に来ているから82%ぐらいと、感情をあえて数字に置き換えてみましょう。

Step2 怒りに至るプロセスを「思い出してみよう」
なぜ今、怒りの感情が沸き起こったのか、そのプロセスを順番に思い出してみましょう。

①友達A子が、嘘をついて別の予定を入れていた→②別の友達との約束を私の約束よりも大事にした→③私もみんなと一緒に出かけたかった……というように怒りに至った経緯を考えてみます。

Step3 体のどこで怒りを感じているのか、「観察する」
肩に力が入っている。胸がギュッとつかまれたような圧迫感がある。体温がぐんぐん上がる感じがする、というように体で起こっていることを観察します。

この3つを考えているうちに前頭葉が反応して、脳が理性的なコントロールをするようになり、落ち着いてきます。だからと言って、怒りの感情を我慢しろということではありません。怒ってしまった自分を否定せずに、受け止めてあげることです。

全身を使って深呼吸をするように大きなため息をついて、心の中で自分に対して、そんなに怒るほど考えて、“頑張ったね”といたわりの気持ちを持ってあげましょう。

相手が怒っている時には……この方法で対処

自分の怒りは、上記の3つのステップを踏めば、ある程度収まっていくはずです。でも、相手が怒っている時はどうしたらいいのでしょうか? 相手に感情のままぶつかってしまうと傷ついてしまったり、こちらにも怒りの感情が飛び火してしまったりすることもあります。

もっとも有効な手段は、“オウム返し”です。これは、企業でのお客様センターなどでも活用されている方法です。

例えば、苦情が入ったとします。「〇〇を購入したけれど、不良品だった! 一体どうしてくれるんだ!!」と言われたら。「〇〇購入いただき、ありがとうございます。不良品だったということですね。申し訳ございません」。「スイッチを入れても起動しないし、困ったもんだよ! 早くどうにかしてくれ!!」→「スイッチが入らないんですね、それはお困りでしたね、申し訳ございません」と、相手が行ったことを同じ言葉を使って復唱するように返事をしていきます。

怒りが激しい時は感情が強まりますが、復唱されることで、相手は自分の怒りの感情をサマライズ(要約)してもらったことになり、少しだけ客観視できるようになります。先ほど、自分の怒りをコントロールするときのStep2の部分を会話の中で生み出して、理性で話せるように状況を変化させていくわけです。

また、怒りがあるということは、相手が今の状況に困っているということ。怒りを向けられたら「そうか、この人は困っているのだな」と思うと、相手の怒りのテンションに乗ってしまうことなく、冷静に対応することができるのです。



Photo: Getty ImagesText: Manabi Ito

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川野泰周さん
臨済宗建長寺派林香寺住職

RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医、医師会認定産業医。慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。現在、寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。うつ病や不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。著書に『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカバー21)などがあり、共著や監修する書籍も多数上梓。