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時と場所が変われば美しい人、きれいな体型のスタンダードも変わる。18世紀のフランスではなで肩やすっきり伸びた背中が美心の条件とされ、現代でもアフリカのある国ではふくよかな女性が富と美の象徴。1990年代のスーパーモデル黄金期には、人間離れした超絶的なスタイルが憧れの的で、バブル期の日本ではスリムな体型が持て囃された。時代は変わり、2017年にはフランスで痩せすぎているモデルの活動を禁止する法案が可決され、プラスサイズモデルがアイコンの一つに。今、求められているのは誰かのスタンダードに委ねるわけではなく、自分の体を認め、愛することの大切さ。ウィメンズヘルスはあらためて自分の体を知性をもって眺め、愛することをここに宣言。Love Your Body。第1回は体作りのキーワードについて、ワークアウトの最新トレンドも含めて識者が語る。

「ダイエット」と「ボディメイク」……女性誌や女性向けウェブメディアでは欠かせないキーワードで、夏に向けてこの2つのワードが特集されて目にする機会も増えていく。

でも、この2つの違いを正しく分かっている? どちらも美しいプロポーションのためのキーワードということで、混同している人が多いよう。

「そうですね、2つの言葉は似て見えますが、その意味するところはちょっと違います。ダイエットは言葉としては日本語で食事のこと。『食事を制限することで体重を落とすことや、サイズダウンを狙うこと』の意味でこの言葉が使われます。

ボディメイクは体を作ることですので、『筋肉をつけること、脂肪を落とすことで体をデザインすること』と言えます。ただ単に体重を落とすというだけでなく、筋肉をつけてメリハリのある身体を作るという要素も含まれるわけです」と言うのは、『スロトレ』などの著書もある運動生理学、トレーニング科学の専門家、近畿大学生物理工学部人間工学科准教授の谷本道哉先生。

「ダイエット」から、主流は「ボディメイク」に変わってきている

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ここ5年ぐらいで、トレーニング事情が大きく変わってきたと谷本先生は言う。

「意識の高い人では10年以上前から変化していましたが、ここ数年で体に関する意識が大きく変わってきたように感じています。以前は、いかに“痩せるか”というダイエットに関する関心ばかりで、どう体重を落としたらいいのか、どうサイズダウンするのか、ということが主流だったように思います。

ところが最近、特に女性の意識が変わってきたように感じます。パリコレなどのモデルたちの拒食症などが問題になり、フランス国民議会で、BMI(ボディマス指数)が18を下回るモデルの活動を制限する法案が出るなど、細いこと=美しいという概念が世界的にも通用しなくなってきています。

スロトレ(スロートレーニング)が流行し始めた頃も「筋肉をつけてメリハリを」という考えは定着し始めていましたが、ここ最近はその考えがより強く、そして当たり前のように認識されてきているように思います。

筋肉とメリハリということで言えば、ここ最近ではヒップメイクが非常に注目されていますね。“美尻”といった言葉もよく聞きます。女性たちの間で、ブルガリアンスクワットが流行していると聞いて、驚いています。ブルガリアンスクワットは結構本格派の、きつい種目ですからね。

モデルや芸能人が実践しているからといった話題性もありますが、日本の場合、あの減量系ジムのCMの影響も大きいかもしれません。ボディメイクでは食事制限だけではなく、本格的な筋トレが必要であるという定義を明確に、世間一般に示してくれたという点での意義は大きいのではないかと思っています」

長年、筋肉の重要性を唱えてきた谷本先生にとっては、うれしい変化だったと言う。ダイエットだけではカッコよくない、美しくない。単に細い体よりもメリハリへの着目はとても大事なことだと語る。

1パーツしか鍛えなければ、「そこしかキレイにならない」のが筋トレ

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「ただ、美尻もいいのですが、できればヒップだけでなく、全身をバランスよくボディメイクしてほしいですね。確かにヒップは加齢による変化が出やすい部分であり、筋肉が落ちることで、その上にのっている脂肪がたるんで見えやすい部分でもあります。

裏を返せば、ボディメイクすれば短期間に変化が出やすい部分。だから皆、ヒップに着目するのでしょう。もちろんお尻を鍛えるのはいいことなのですが、ヒップしかやらなければヒップしかよくなりません。

筋トレは部位別でケアするものなので、ある筋肉にアプローチをかければその筋肉しかよくなりません。一つの動作ですべての筋肉が鍛えられるものはありません。最近、ヒップ専用のジムなどもありますが、ヒップはきれいになりますが、他の部分のトレーニングをしなければ、バランスのよいメリハリはつきません。

また一部の筋肉を局所的に鍛えても、基礎代謝は大して上がらないので、“筋トレで痩せやすいカラダに”という効果もあまり見込めないことになります。できれば、バランスよく全身を鍛えてほしいですね」

谷本先生は、ヒップトレーニングがブームであるなら、そこを入り口としてヒップを重要視してもいいから、別の部位にも着目すべきと指摘します。

「ブルガリアンスクワットはちょっと難しく、強度も高いので、初心者がきちんとした姿勢でできるかわかりませんが、下半身全体の筋肉にアプローチできます。

一般的なスクワットでも太ももの前後とヒップ、ふくらはぎが鍛えられるので、下半身ケアにはいいですね。スクワットの唯一の欠点は、脚を前に降り出す動きがないので、腸腰筋(ちょうようきん)を使いません。腸腰筋を使うと歩くときの動作が大きく、速くなるので日常生活でのエネルギー消費も大きくなります。ブルガリアンスクワットはこの腸腰筋も鍛えられるのがいい点ですね。腸腰筋は骨盤を前傾させる筋肉でもあるので、猫背など予防にもなります。

上半身は、腕を押す動作(ベンチプレス)、引く動作(ローイング)が重要になります。押す動作は腕立て伏せでもできますが、引く動作はなかなか自重ではできない動きなので、ジムなどの器具を使ったほうが簡単です。

引く動作(ローイング)の種目は体幹を反らせるは背筋群も鍛えられます。スクワット、腕を押す動作の種目、引く動作の種目に腹筋系の種目を加え、トータルで4種目行えば、ほぼ全身を網羅したことになります」

短期よりも長期で。「ボディメイクはライフスタイル」!

そして最も重要なのは、ボディメイクとの付き合い方に対する意識だと谷本先生は指摘。痩せたいから「この期間だけ」「絞りたいから2カ月だけ」、というのは本来のボディメイクの姿ではないと言う。

「最初の2カ月間一気にやって、ある程度の成果を出すのはいいと思います。でも、それでやめてしまっては当然もとに戻ります。

ボディメイクは“ライフスタイル”であるべきだと私は思っています。無理がない範囲で継続して行う。これが大事です。

期間限定のボディメイクは、効果も期間限定です。短期間で無理して成果を出してリバウンドするよりも、続けられるボディメイクをライフスタイルに取り入れてずっと付き合っていく。一気に大きな変化はしなくても、半年後、1年後には体が変わっている、そしてそれをキープできるというのが本来の姿なのです」

■お話を伺ったのは……

谷本道哉(たにもと・みちや)先生

近畿大学生物理工学部人間工学科准教授。大阪大学工学部卒、東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。運動生理学、トレーニング科学が専門。『動的ストレッチメソッド』(サンマーク出版)、『35歳からのカラダルールBOOK』(ベースボールマガジン社)、『学術的に「正しい」若い体のつくり方』(中公新書ラクレ)、『スロトレ』(共著、高橋書店)など著書も多数。

Photo:Getty ImagesText:Manabi Ito