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ラベルには書かれていない調剤、禁止薬物や未試験の医薬品を含むサプリメントが急増中。アメリカのとある男性の話を読んで、正しいサプリメントの知識を手に入れて。(この記事はメンズ・ヘルスに掲載されたものです)

2014年、フェルナンド・デル・リアルの人生はずっと思い描いていたようなものだった。35歳になる彼は、妻と元気に飛び回る2人の息子とともに、カリフォルニア州アズーサの家に暮らしていた。しかし、かつてエクササイズや柔術に費やした自分の時間は、今やディズニーランドやレゴで溢れかえっていた。いまだ82キロを保っていたが、20代の頃と比べると ‘やわらかい’82キロであることに違いなかった。
ちょうど体力の衰えを感じ始めた頃、友人の一人がどんどん鍛えらていくのに気付いた。その友人から、このおかげでジムで急速な効果をあげられたというサプリメントを紹介された。11月半ば、地元の栄養食品店で同じ商品を探してみたものの見つからず、代わりに店員に勧められたのがトリメチル・エクストリームという商品だった。
そのボトルには聞いたこともないような成分の表示があったが、安全で合法な‘プロホルモン’であると記されていた。店員は同時にリバー・ヘルス(肝臓の健康)という商品も勧めてきた。「注意書きなんてなかったんだ」とフェルナンドは言う。「店から購入した商品を使って悪いことが起きるなんて思わなかったよ」。80ドルを支払い、その錠剤の服用を始めた。
翌月、その効果は期待以上のものだった。週に4~6日、1~2時間のウェイトリフティングで腕と脚についた5キロ分の筋肉がハッキリしてきた。さらには過去最高の134キロのウェイトを挙げることができた。
しかし12月末にもなると他の症状が現れるようになった。体力がガクンと落ち、勤務先であるBNSF鉄道の貨物車掌としてのシフトのためにベッドから出るのがやっとの状態になった。陰嚢が苦しく、ジムでランニングマシンに乗ると脚が鉛のように重く感じた。
4週間後、フェルナンドは錠剤の服用を中止した。そして2015年1月初旬のある日、職場の同僚に引き止められ目が黄色いと言われた。「鏡を見たんだ。完全にびびったよ」と彼は振り返る。驚くべきことに、2つの金色のビー玉が自分を見つめ返していたのだ。

サプリメント好きが高じてアメリカ人は2016年、270億ドルもの大金を錠剤と粉末剤につぎ込んだ。その1994年に4,000あった商品リストはいまや55,000を数える。何百万人もの顧客がビタミン摂取量を増やしたり健康維持のためにとサプリメントに頼っている。減量、セックス、筋肉増強を助けると約束するハーブ入り混合物を摂取する人もいる。セックスと筋肉増強は主に男性を狙ったものだ。そして時々、人生が身体的に厳しいものであればあるほど、サプリメントはより魅力的な存在になる。
アメリカ陸軍の研究者であるハリス・リーベルマン博士は、どれだけの兵士がサプリメントを服用しているかを明らかにする調査に着手し、半分以上の兵士に服用が見られた結果に驚いた。最も利用されていたのはマルチビタミン剤だったが、筋肉増強剤もまた非常に人気であったと博士は言う。フェルナンドのように、多くの男性がサプリメントは力をつけるための近道であると考えているのだ。
サプリメント業界は、医薬品というよりは食品にあたる商品を規制する米食品医薬品局(FDA)に管理されている。よって近くの薬局でサプリメントがアレルギー薬やイブプロフェンの隣に並んでいるからといって、そのサプリメントが安全面や効果面でそのような医薬品と同様の試験基準に適合しているわけではない。これこそがサプリメント販売が未経験者にとって魅力的な商売である理由なのだ。
アメリカ国内で7,000以上のサプリメント会社が登録されており、その中に正しいことをしようと努力する長い歴史を持つ企業があることは間違いない。しかし問題は、未試験か違法、またはその両方の成分を含む商品を販売する多くの投機家が現れたことにある。犠牲を払っているのは消費者だ。最近の調査では、サプリメントが米国内の薬剤性肝臓障害の新たな原因に特定された。肝臓障害件数のうち、薬剤性であったのものは2004年に7%。それが今日では20%にも達している。またニューイングランド医学ジャーナルに掲載された他の研究では、毎年23,000件の救急外来受診はサプリメントの摂取によるものであると推定されている。

黄色い目にびっくりしたフェルナンドは、医師助手である義理の姉に電話をした。何か良くないものを摂取していないか聞かれ、「最近飲みだしたものがある。でもお店で買ったものだよ」と答えた。彼と同様、彼女もまたその錠剤が小売店からきたものだと知って安心したのだった。もしかすると極度の脱水症状かもしれないというのが彼女の見解だった。
必要以上の水分を摂っても状態は改善しなかった。妻が必死に勧めてもフェルナンドは病院に行くのを拒んだ。「大丈夫大丈夫、水だけ飲んでおくよ、っていう感じだったんだ」という彼は、同僚からの恐ろしいコメントの数日後、ついに救急医療室へ行くことになったのだった。検査の結果、肝酵素値がとてつもなく高いことが判明した。黄疸と診断され、自宅へ帰された。
すぐにかゆみが始まった。何千もの蚊に刺されたようなかゆみだった。石油を腕にかけて火を付けるような悪夢を見た。目が覚めればベッドシーツは汗と引っ搔いた肌からの血でまみれていた。
1か月のうちに体重は14キロ近く落ち、バレンタインデーの直前、医師にMRIのために病院に来るよう言われた。「70歳になる父が病院に連れて行ってくれたんだけど、車から自力で降りることができなかったよ」とフェルナンドは語る。「父と2人して泣いた。一生忘れることはできない。人生で父が泣くのを見たのはこれ以外に一度だけだ。」
翌朝、フェルナンドは入院した。「医師団に、もしも1~2日で変化が現れなければ肝臓移植待ちのリストに載せると言われたんだ。」
医師団の見解は、フェルナンドが服用した錠剤には非合法であるステロイドが含まれていたというものだった。法律では、サプリメントにはビタミン、ミネラル、アミノ酸、ハーブ/植物、もしくは体内に吸収される食物中の物質のうち少なくとも一つ、もしくは混合の成分が含まれていなければならない。しかし現実には、ラベルには書かれていない調剤、禁止薬物や未試験の医薬品を含むサプリメントが急増しているのだ。いくつかのブランドは、ゼラニウムエキスとしても知られているDMAA興奮剤や、より最近では禁止調剤とされる減量薬物のシブトラミンなどの成分不開示が懸念を引き起こした。

時々、サプリメント自体に有害で、不自然に大量の天然物質が含まれることさえある。緑茶エキスは減量ピルによくある成分だが、カプセル1錠が濃いお茶1杯より危険なはずはないと思ったであろう人々に肝機能障害をもたらすことで起訴されるケースが急増している。
1990年代に通過した法案では、FDAはサプリメントとして販売される商品を取り締まることができる(主に在庫のランダムな抜き打ち検査)とするが、それは人々が商品を購入した後またはフェルナンドのように病に陥った後のこと。非常に多くの企業と商品数を考えると、場当たり的な法の施行はすなわち、うまいこと逃げられる確率を知って法律に従わない製造者が得をする仕組みを意味するのだ。
商品が有害かもしれないという報告を受けると、FDAはホームページ上で国民に注意を促し、製造者と販売者に在庫から取り除くよう指示する。2015年4月13日には、深刻な肝臓損傷に発展する恐れがあるとして、トリメチル・エクストリームに対する警告が掲載された。

メンズ・ヘルスが2016年12月にトリメチル・エクストリームをインターネットで購入しようとすると、とあるサイトはクアッド・トリメチル・エクストリームという代替品を勧め、送ってきた。どちらも米国アンチ・ドーピング機構所有の高リスク栄養補助食品リストにあるものだ。
メンズ・ヘルス栄養学アドバイザーのマイク・ラッセル博士は、この2つの商品のラベルを分析してこう述べる。「化学の学位でも取得していない限り、この2つの商品に何が入っているのか、違いは何なのかを理解するのは難しい。非常に似た商品で、トリメチル・エクストリーム通常版にはステロイドに由来する成分が3種類、クアッド版には4種類記載されていた。一般にプロホルモンとして知られるこれらの複合物は、ステロイドと酷似する働きをし、ステロイド以上、さもなくば同等のリスクを伴う。」
これらの増加するリスクには、特に再起不能の臓器障害、心臓発作、脳卒中、睾丸収縮、乳房肥大や男性不妊症が含まれる。
メンズ・ヘルスが、このボトル1本100ドルの商品を独立研究所であるNSFインターナショナルに送ると、クアッド版には成分として表示されていたステロイドが1種類も含まれていなかったことが分かり、主に活発な成分は実際にはウコンであることが判明した。「筋肉増強剤に、ラベルには記載のないアナボリック(タンパク同化)・ステロイドが入っていることは頻繁にある」とNSF上級科学研究員のジョン・トラヴィスは語る。
製品の長い化学成分名を省いて、ラベルに“経口ステロイド”と記載する企業があるが、間違ってはいけない。米国アンチ・ドーピング機構で薬物・サプリメント照会の特別顧問を務めるエイミー・エイチナー博士は、どんな形状でもアナボリック(タンパク同化)・ステロイドの販売は違法であるとする。だが、企業はそれでも販売する。非合法商品の販売によって得られる金銭的報酬が大きく、捕まるリスクを冒す価値があるからだろう、と博士は続ける。栄養補助食品と偽ってのステロイド販売は進行中の問題であり、「いまだ解決されないのは本当に腹立たしい」。

政府が十分な対策をすることができない、またはしないという議論が批評家の間で頻繁にされている。2007年以来、FDAは危険性がある782種ものサプリメントを特定した。2015年と2016年のみで200件以上の商品リコールが実施された。しかし2013年に公開された調査では、2004年から2012年の間にFDAによって発見された怪しい商品のうちのたった70%しか回収されていないことが発覚したのである。
サプリメントのお目付け役であるハーバード医大のピーター・コーヘン医学博士は、商品のリコールですら必ずしも消費者を守ることはできないとする。リコールされた商品がインターネットで販売され続けているかどうかの調査に乗り出したのだ博士は、2014年に出版した自身の調査結果に驚愕とした。2009年から2012年の間に安全のためにとリコールされた商品の10%が、いまだオンラインで購入可能だったのだ。そのうち67%の商品には危険な成分が含まれたままだった。商品のラベルは変わらず、商品名や会社名もそのままで、パッケージが若干違うだけだった。「この調査によって、最も危険なサプリメントを店頭から下げるようなリコールでは不十分だということが明らかになった」と博士は語る。

病院のベッドで肝臓が回復するのを祈りながら待っていたフェルナンドは、さらに悲惨な知らせを受ける。腎不全を患っていたのだ。「怖かった。自分には子供がいる」というフェルナンドだったが、徐々に彼の臓器は治癒し始めた。1週間以上の入院を経て自宅療養に入ったが、職場に復帰したのはその3か月も後のことだった。
回復したフェルナンドは怒り、ラスベガスに拠点を置く販売業者エクストリーム・プロダクトグループ社とその関連会社ブランドニュー・エナジー社を訴えるため、ロスアンゼルスの弁護士テニー・ミルザヤンを雇った。起訴といってもそれはミルザヤンがその2社を見つけることができればの話であった。ボトルに記載されていた電話番号は不通、さらに代理人が1週間車で通い詰めて見つけたゲートで囲まれた居住区内の家のポストは、未開封の手紙でいっぱいだった。
ミルザヤンがカリフォルニア州務長官のもとに登録されている会社設立書類に記載の住所をグーグルマップで検索したところ、そこにあったのは今はもう営業していないレトロな洋服店であった。フェイスブックへの投稿、インターネットの掲示板、リンクトイン、そして栄養学フォーラムまで調べ、その企業の裏にいる人物へ導いてくれる手掛かりを探した。「こういう会社は突然現れてはお金を使わない。そしてネバダ州など法律がゆるい場所で法人化するのよ」とミルザヤンは説明する。最終的に販売者は見つかった。果たして彼らは商品の原料をどこから入手していたのか。ミルザヤンの知る限り、中国からであった。
訴訟を担当したブランドニュー・エナジー社の弁護士団が、この一件についてコメントすることはなかった。アレクサンドラ・ビューチナー弁護士によると、もう一つのサプリメント、リバー・ヘルスは今はなきVIT研究所によって作られ、5年前に生産が中止されていた。それがその後何年も経って購入可能となった過程については現在も調査中という。

多くの健康専門家は、特に減量と筋肉増強目的で販売されている商品へのより厳しい安全対策を望んでいる。「サプリメント製造者は、医薬品と同様の安全性と有効性の研究をし、その結果をFDAへ提出することが義務付けられるべきだ」と指摘するのは、ボストン小児病院のブリン・オースティン科学博士。「サプリメントを食品と同じように扱うわけにはいかない」。新たな連邦法が作られることはまずないだろう。しかし最近の研究でオースティンは、未成年者に対する減量や筋肉増強サプリメントの販売を禁止したり、これらの商品はカウンターの後ろに陳列するなど、個々の州が導入できる対策をまとめた。
サプリメント業界の代表者たちは新法には反対だが、悪質な経営者が事業領域全体を汚してしまうのでは警戒している。彼らは、違法な商品が発見された際のより強力で迅速なFDAの動きを要請している。産業はアメとムチによって成長する。「FDAの主な仕事はムチを行使することだが、そのムチは敏速で優れたメッセージ性をもたなければならい。それが欠けているんだ」と、米国国民生産協会理事のダニエル・ファブリカント博士は言う。
サプリメントの購入を考えているなら、よく知られた大きな会社の商品に限ることだ。サプリメント訴訟に携わるティム・ブロッド弁護士は、「より大きく定評のある製造者を見つけられれば大丈夫だろう」と言う。商品が安全性と効能のテストを受け、ラベルに記載のある成分が含有されていることを示す、NSFインターナショナルや国民生産協会のシールを探そう。(NSF Certified Sportというアプリは安全性テストを通過したサプリメントを一覧にしている。)

リーベルマン博士によると、もちろん市場に出ている多くのサプリメントには複数の成分が混合されているため、審査が特に難しいという。混合成分について行われた研究は非常に少なく、ほとんどの個別の成分に関する質の高い研究も限られているのが事実である。異なる成分が混ざった場合、予想外の副作用が起こる可能性がある。栄養補助食品と混合製品も医薬品と相互作用することがある、と博士は続ける。
この頃では、フェルナンドはビタミン剤の摂取すら控えている。「元通りに回復したと思いたいけど、肝臓への損傷が永久的なのは知ってるんだ」。苦しい試練の結果、彼は今37歳にして高血圧を患っている。「感情的な面で一番苦しんでいると思う。家族にとても辛い思いをさせた。この話をしているだけで恐ろしくて鳥肌が立つよ」。

すべてのサプリメントが危険なわけではない。健康や筋肉増強への道を助けてくれるものもある。
■プロテイン・パウダー

メンズ・ヘルス栄養学アドバイザーのアラン・アラゴンが勧めるように、目標体重の0.5キロあたりに毎日1グラムのプロテインを摂取するのは簡単ではない。そこで活躍するのがデイリーシェイク。筋肉の成長を加速させる即効性乳漿(にゅうしょう)タンパクを含むブランドを探そう。低炭水化物ダイエットをにこだわるのであれば、マルトデキストリンを含まない商品を選ぼう。

■クレアチン

アラゴンによると、クレアチンの日常的な摂取は安全で、筋力トレーニングによる筋肉増強を加速させる科学的に証明された方法。体内システムにあらかじめ整えるために、5日間1日15~20グラムのクレアチンを摂取するよう心がけ、その後1日2~4グラムに切り替える。魅力的な調剤に惑われさないこと。スタンダードなクレアチン・モノハイドレートには十分な効果がある。

■マルチ・ビタミン

マルチ・ビタミンは、食習慣における栄養の偏りを補ってくれる保険のようなものだと言うのは、登録栄養士のクリス・モール博士。研究によって驚くべきメリットが発見された。マルチ・ビタミンを毎日摂取することによって、ストレスや不安、鬱を30%も緩和することができるそう。昼食と一緒に摂取すれば、より多くの栄養分を吸収することもできる。大量にではなく、1日あたりの推奨摂取量を含むものを選ぶように。

「そのサプリメント、安全?」は当初メンズ・ヘルスに掲載された。

Is Your Supplement Toxic?

Text:LAURA BEIL FOR MEN’S HEALTHTranslation:Ai Igamoto Photo: LEVI BROWN