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これまでたくさんのジムを目にし、何カ所も見学して決めた人も少なくないだろう。中にはパーソナルトレーナーをお願いした人もいるかもしれない。だけど、それは何を基準に決めたもの? 予算? フィーリング? そこで今回は、ジムやパーソナナルトレーナーを探すときのヒントを専門家に伺う。前回に引き続きお話を聞いたのは、海外でもトレーニングに関する研究を重ね、アスリートの指導も手掛けているストレングス&コンディショニングコーチの河森直紀さん。

ジム選び、パーソナルトレーナー探し。その基準となるものは存在する?

ジムを選ぶ、パーソナルトレーナーを依頼する、しない……。競技で結果を出したい際も、自分の身体能力を高めたい場合もこれだけ選択肢がある今、どう考えたらよいか分からないという声もある。一方で、競技や大会と仕事の両立、競技へ投資できる予算との兼ね合いなどから、ベストな方法を考えあぐねている、という人も。

「まずは場所ですね。自宅から近くて通いやすいジムというのはモチベーションにも関係します」と教えてくれたのは、これまで日本代表選手の指導も担当したストレングス&コンディショニングコーチの河森直紀さん。

予算が限られている場合、自宅でのトレーニングや自重トレーニングという選択肢を考える人もいる。

「出来れば、フリーウエートトレーニングができる施設をおすすめします。また、可能ならばパーソナルトレーナーをお願いする方がベターですね。設備が充実しているジムがあれば理想ですが、バーベル、ダンベルなどがそろっている区や市営のジムなら利用費も安価なことが多く、これらを利用するのも手です」

自宅でのトレーニングや自重トレーニングだけではなぜ不十分なのか? それはトレーニングにおけるとある法則があるからだ。

「漸進性過負荷(ぜんしんせいかふか)の原則といいます。筋肥大や筋力の向上などには、自分が普段慣れている負荷を超えるような負荷(=過負荷)を身体に与える必要があります。また、そのような過負荷に身体が慣れてしまうと、次第にその負荷がもはや過負荷ではなくなってしまうので、さらなる過負荷を与え続けるためには、少しずつ負荷を増やしていく必要もあります。これが漸進性で、つまり少しずつ負荷を増やしていくことで、筋量の向上など狙った“適応”を得ることが出来るわけです。

そのためには、ずっと同じメニュー、同じ負荷でトレーニングすることは理に叶っていません。自重トレーニングだけでは限界があり、バーベルやダンベルを使って負荷を増やしながらトレーニグに取り組めるジムに通うことをおすすめするのは、こうした理由もあります」

そして迷ってしまいがちなのが、パーソナルトレーナーを依頼するかどうか、ということ。これについても河森さんは可能ならばお願いしては、という意見。

「二つの側面があります。一つは、正しいトレーニングのやり方やフォームを覚えられる、ということです。もし予算が厳しければ、①最初の3~4カ月、パーソナルトレーナーに依頼 ②少し余裕があれば、最初の3~4カ月に加え、無理のない範囲で定期的にお願いする ③余裕があれば週に1回~などで依頼する、など段階を追って考えてみても良いと思います。初めてパーソナルトレーニングを受ける方やトレーニング初心者の場合、自分でトレーニングを続けるとフォームが崩れてきたり、間違ったトレーニング内容になってくることがよくあります。その点でも、②のように軌道修正が出来るようにしておくと、後々効率的だと思います」

もう一つが、本格的に競技に打ち込んでいる人の場合。
「パーソナルトレーナーに体調や現在のトレーニング成果について相談やフィードバックをすることで、適したトレーナーであれば、それに合わせたメニューを組んでくれるはずです。

また、我々ストレングス&コンディショニングコーチは、試合に向けてトレーニングの“期間”を作ります。“期分け”と言いますが、試合に向けてこのタイミングならこうした内容、試合近辺ならこれといったように、最適化したプログラムを提案してもらえます」

自分に合ったパーソナルトレーナーとは? 「目的」とトレーナーの得意分野を考えよう

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パーソナルトレーナーを探す際、漫然と依頼するのはご法度とは分かっていても、何を基準に探すか分からないという人も少なくない。

「前回もお伝えしましたが“目的”を考えることです。競技のためなのか、健康を増進したいのか、見た目を変えたいのか。目的が異なると、最適な手段も変わります。それによって、お願いするパーソナルトレーナーも自ずと変わってきます。つまり、目的に適した専門領域を持つトレーナーに依頼する、というわけです」

では、逆に注意すべきポイントはと言うと……。「パーソナルトレーナーはそれぞれ得意な分野があります。『何でも出来ます』という方は、ちょっと違うかもしれませんね。さらに言えば、例えば『体の見た目を良くしたい』という目的でパーソナルトレーナーを選んだとき、その方が担当しているクライアントの結果が分かるのであれば、なおベターです。きちんと結果を出しているのであれば、その分野に関しての知識を持ち、指導が出来るという判断基準になります」

もう一つ知っておきたいのが、どういった背景のトレーナーかということだと河森さんは言う。

「競技力向上に携わるトレーナーは大きく分けると私のような『ストレングス&コンディショニングコーチ』と、アスレティックトレーナー・理学療法士・柔道整復師・鍼灸等の資格を持った『メディカル系トレーナー』に分かれます。ストレングス&コンディショニングコーチは体力向上トレーニングのプロ。アスリートをメインに、パフォーマンスの向上やけが、トラブルの予防も視野に入れながら適切なプログラムを考え、指導するトレーナーです。

一方、メディカル系トレーナーは、スポーツドクターやコーチと連携しながら競技者の健康を管理し、けがやトラブルの予防の他、スポーツ外傷や障害の救急処置などを行うトレーナーです。アスレティックリハビリテーションやトレーニングを考案することもあります。つまり、けがやリハビリのプロであるわけです。

特にけがをしているわけではなく、競技のために体力向上を目的としたトレーニングをされたいのであれば、ストレングス&コンディショニングコーチとして活動しているトレーナーを選ばれるとよいでしょう。

もし、けがをしていたり痛みがあったりしてお困りであれば、メディカル系トレーナーに相談されるのがよいと思います。それぞれ専門性が異なるので、目的に応じて、適切なタイプのトレーナーを選ぶのが重要です」

ただ、専門分野を持っていても、別の分野も指導出来ると口にするトレーナーも存在する。それに対して河森さんの見解は……。「もちろん、出来ないわけではないと思います。メディカル系トレーナーでもトレーニング指導を本格的に、きちんと出来る人もごく少数ですがいます。そういう方は、いわば“天才”。誰もが出来ることではありません。

専門領域というのは、たとえれば樹木の幹のようなもので、専門性がしっかりしているからこそ、他の要素を学んだときに生かすことが出来ます。アレもコレも出来ます、という方は何が“幹”なのか分からない。結果、しっかりとした指導にはつながりにくいと私は思います」

「説明力」とコミュニケーションスキルのあるトレーナーかどうか

もう一つ、河森さんがパーソナルトレーナーを探すときのヒントを教えてくれた。

「きちんと説明が出来るかどうか、です。例えば『何でこのトレーニングをするのか』『なぜこのレップ数なのか』『体がどう動いて、可動域はどうなっているのか』などを質問したときに、きちんと答えられる人がよいでしょうね。

ある程度のレベルのトレーナーであれば、指導方針をしっかりと考えているはずです。ふわっとした答えしか返ってこなかったら、その方は避けた方が良いかもしれません」

ジムは自分の目標に向かっていくための大切な空間。そしてパーソナルトレーナーは、トレーニングを“伴走”してくれる、大切な存在。そのためにも、いろいろな角度から検討を。さて、次は最終回。誤解しがちな「きついトレーニング」と乳酸について、河森さんにお話を伺う。意識改革にもなる話、ぜひチェックしてみて!



Photo:Getty Images

Headshot of 河森直紀さん
河森直紀さん
ストレングス&コンディショニングコーチ

早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。米・Midwestern State University大学院修士課程修了、豪・Edith Cowan Universityの大学院博士課程修了。シンガポールの政府機関、Singapore Sports Council(現Sport Singapore)にS&Cコーチとして着任し、シンガポール代表アスリートのS&C指導を担当。帰国後は国立スポーツ科学センターで日本代表選にトレーニング指導などを行う。研究とトレーニング指導の二つの軸を持つ稀有なS&Cコーチとして、その発言に注目が集まる。著書に『ピーキングのためのテーパリング‐狙った試合で最高のパフォーマンスを発揮するために‐』(ナップ)がある。ブログ S&Cつれづれ Twitter @kawamorinaoki