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ファッション業界におけるサステナブルなモノづくりは、今注目すべきポイント。私たちが日々身につけるTシャツやセーター、デニム1本を作るのに、環境がどれだけ影響を受けているのか、きちんと知っておきたい。私たちの選択は自由だからこそ、何を使うか、何を身につけるか、その選択は意思表示でもあることを意識しよう。そこで今回は、スポーツブランドのサステナブルな取り組みをご紹介。今当たり前にあるものを後世につないでいくために、自分なりのアクションを起こしてみて。

ファッション業界が環境に影響を及ぼしている、というのは周知の事実。環境への配慮が高まる現代において、持続可能な社会づくりにコミットするスポーツブランドも少なくない。では、持続可能な社会づくりってなんだろう?

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2016年に国連サミットで掲げられた17の「SDGs(持続可能な開発目標)」はご存じだろうか。貧困や不平等をなくし、気候変動に対処しながら、すべての人に平和と公正を確保するための取り組みを、今後15年間進めていくというもの。これらは決して先進国や企業だけに呼びかけているものでなく、すべての国、そしてすべての人に実行を促しているそう。

ファッションと環境のつながりとは?

私たちが着用する衣類と地球環境がどう関係しているか、少し考えてみてほしい。

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例えば、高い保温性と肌触りの良さが特徴のカシミヤセーター。1枚のカシミヤセーターを作るために必要とされるのは、カシミヤヤギ約4頭分。元来は、その希少価値から高級素材として扱われていた。けれど、カシミヤ製品への需要が高まり始めると、手頃な価格での大量生産が求められるように。カシミヤヤギを飼育するモンゴルの農家は、飼育数を増やすことになる。すると、ヤギの硬いひづめが地面をえぐり、草が生えにくくなってしまった。その結果、現在モンゴルの草原は砂漠化が急速に進行しているという。

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もっと身近な素材を例に挙げるとすれば、Tシャツやデニム、多くの衣類に使用されているコットン。自然植物であるコットンには、害虫対策として農薬や化学肥料が使用される。かつては養分をたっぷり含んでいた土壌も化学物質の散布により汚染されてしまうことも。さらには、有毒な農薬によって農家の人の体にも被害をもたらすことが懸念されている。

私たちは衣類に使われる素材の成り立ちを知らないことが多い。レーヨン、アセテートなどの素材は、植物の繊維を原材料としているため、森林の伐採を深刻化させているひとつの要因にもなっているそう。森林がなくなることは、多様な生物の生息地を奪うことや地球温暖化にもつながる。

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私たちが着用する衣類は、植物や動物などさまざまな自然環境に支えられて生まれる。これまでの衣類づくりのために、崩れてしまった自然のバランスを整えていくことが、これからの課題。

スポーツブランドを含め、ファッション業界はこの持続可能な開発にどんな行動を起こしているのだろう。

「アイスブレーカー」は農家と持続可能なビジネス提携を実行

自然豊かなニュージーランドのメリノウールを使った、高機能なアウトドアウエアを提供する「ICEBREAKER(アイスブレーカー)」。石油由来の合成素材ではなく、天然由来の素材にこだわって作り上げられたブランド。経済活動とエコロジーのバランスを考慮した、彼らのサステナブルなビジネスとは?

■農家と直接契約で、品質・環境・動物も守る⁉

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「アイスブレーカー」は、彼らのプロダクトの原料であるメリノウールを調達するために、生産農家と直接契約を結ぶところからスタートした。

これは、長期にわたる高品質な素材の確保を可能にしただけでなく、農家の生活を安定させた。羊のエサとなる草や水の供給を絶やさないよう、きめ細やかな管理を要する農場維持には多大な費用がかかる。しかし、メリノウールはオークションでの取引が主であったため、不安定な収入が農家の頭を悩ませていた。

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そこで、「アイスブレーカー」と農家で結ばれた長期的な直接契約は、農家の収入の安定を保証。彼らの生活基盤が守られた。この収入の安定化は、動物に充分な栄養を届け、環境のメンテナンスもできるという大きな役割も果たしている。結果、いい環境下で飼育された羊から採れるウールは高品質と双方にメリットがあるビジネスが成り立っている。

■染料は桜やオリーブ。心地よく着られる「ネイチャーダイド」シリーズ

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天然繊維のメリノウールを、植物由来の染料で染めた「ネイチャーダイド」シリーズ。桜の木、オリーブの葉、松ぼっくりなどで染められたカットソーは、優しい色合いが目を引く。“天然”だからこそ、ひとつとして同じでなく、たくさんの表情を見せてくれるウエアは愛着が湧くはず。「アイスブレーカー」のこだわりは、水質にまで及ぶ。プロダクトを染めるのに使われるのは、ミネラルが豊富な富山の天然水。染色に使われた水は、きちんとろ過されてから河川に戻っていくそう。袖を通すものが、自然に寄り添っているという心地よさを感じて。

ネイチャーダイド ロングスリーブ ポケット クルー ¥13,000(税抜き価格)
https://www.goldwin.co.jp/icebreaker/

できる限りできること、がポジティブな変化を生み出す「キーン」の取り組み

アウトドア・フットウエアブランドの「KEEN(キーン)」。彼らはそのシューズを履いて出掛けるアウトドアフィールドを守ることもブランドの役目として、環境保護や社会貢献に取り組んでいる。シューズ作りを通して、世界にポジティブな変化を起こすためのアクションとは?

■化学薬品は可能な限り使わない。それが環境、そして自分たちも守る

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ファッション業界において、化学薬品を一切使わないのはほぼ不可能。けれど環境汚染を防ぐためにできる限り、それを取り除いて高品質な商品を作ることはできるはず。
通常、アウトドア製品やフットウエアを水や汚れから守るために使用される「過フッ素化合物」は、分解が容易ではないため、製造過程で流れ出た水や放出された大気中に長くとどまってしまう。実は、多くの科学者によって、人体内にも過フッ素化合物は確認されており、発がん性がある可能性も示唆されている。

「キーン」の製品は、この有害な化学薬品の使用を95%カット。同等の性能を持った代替物質で、撥水・防汚加工を行っている。

■レザーを選ぶなら、できること

近頃はフェイクレザーがブームだけれど、レザーが避けられるようになったのは、動物愛護の観点からだけではない。皮をなめしてレザーにする過程では、大量の水、エネルギー、化学薬品が使用される。

「キーン」は、環境にやさしくレザー製品を作る方法を実践してきた。それは、LWG(レザーワーキンググループ)の認証を受けた製革所からレザーを調達すること。LWGとは、製革工場の環境対策を監査する国際団体。監査の対象は、廃棄物の処理、二酸化炭素の排出、水処理など多様な項目を設けている。

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そんなLWG認定レザーを使って作られたのが「JASPER」。シューズの製造環境を垣間見ることができるのは、特別な感覚。

シューズ「JASPER」 ¥11,800
keenfootwear.com

商品お問合せ先 tel.03-6416-4808

「アダストリア」は環境配慮&働き方で社会にアクション

「ジーナシス」「ベイフロー」などのアパレルブランドを持つ「アダストリア」は、ファッショントレンドを常に発信し続けながら、社会に対してできることを行っているそう。環境を守る、人を輝かせる、地域に貢献する、をテーマにした取り組みは、私たち消費者も、自分事として行動できるヒントがあった。

■ショッピングにもマイバッグ、で自分にいいことのサイクルって?

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マイバッグを持って行くのは、スーパーだけ? 服や靴のショッピングにマイバッグを用いることも、資源の節約につながるはず。「アダストリア」が行う「REBAG PROJECT」は、マイバッグを持参した人に、アダストリア系列の店舗とウェブストアで使える[.st]ポイントが付与されるサービス。

資源の節約、CO2の抑制のためにスタートしたこのプロジェクトによって、2014年から現在(2018年8月)までの約4年間で、91万枚以上のショッピングバッグを削減。プラスチックバッグは石油、ペーパーバッグは木材由来。そしてそれらを廃棄するときはCO2が発生する。そうした事実は分かっていながらも、なかなか行動できていないことが身の回りにたくさんあることに気づかされる。

いいことをしたら、いいことがある。シンプルかつヘルシーなサイクルは、もう始まっているみたい。

■「ダイバーシティ」雇用で経済成長も

「SDGs」には、自然環境を守ること以外にも、ジェンダー平等やすべての人の人権を実現することも示されている。「アダストリア」が雇用面で取り組んでいるのは、「ダイバーシティ PROJECT」。ダイバーシティとは、英語でいう多様性のこと。年齢や国籍、障がいの有無、LGBTなどに関わらず、多様な個性を認め合うことが雇用の上でも大切。

「アダストリア」では、店舗や特例子会社での障がい者雇用に取り組んだり(雇用率2.5%)、女性の管理職の比率(35.8%)も上昇傾向にある。すべての人が働きがいのある仕事、人間らしい仕事をすることは企業や経済が成長する基盤。その繁栄がよりよい社会を作る、と考えると雇用・社会・環境などすべてがつながっていることを再確認できる。

http://www.adastria.co.jp/aboutus/csr/subject/

「SDGs」は自分事。いつか世界を変える行動を少しずつ

貧困解決、地球温暖化ストップ、経済成長。なんだか規模が大きくて自分が貢献できることはなさそう、なんて思わないで。今回紹介した企業のサスティナブルな取り組みは、私たちがどれだけ自然環境に頼って生活しているのに気がつくヒントになったはず。

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動物が好きなら、彼らが気持ちよく暮らせるようにできること。海が好きなら、きれいな水を保つためにできること。まずは、自分の「好き」に関わることから、何かアクションを起こしてみよう。大きな変化は、小さな変化がなければ絶対に生まれないのだから。



Photo: Gettyimages(top)

Headshot of Sawako Motegi
Sawako Motegi
コントリビューティング・エディター

スポーツファッション・サステナブルの記事を担当。山梨県の富士河口湖町へ移住し、オンラインを駆使して取材活動を行う。フェミニズムや環境問題などの時事ネタやニュース、人を掘るのが得意。  2020年までウィメンズヘルス編集部に在籍。