あの人のネガティブなエネルギーがあなたに与える驚きの影響
あの人たちの感情の波に飲まれないで。
あの人たちの感情の波に飲まれないで。
部屋を出る時に、そこにいた人々の感情を引き連れて、自分の感情を残してくることはご存知? これは、たぶん知らず知らずのうちに起きていること。作家のアダ・カルホーンが、このオーラのような余波があなたの心理状態、キャリア、そして最も親しい友人関係を左右する謎を探ってみた。
最近とあるバーで、友人と私は付き合いの長い一人の女性に出くわした。彼女のことは尊敬している。才能に溢れ、賢い女性だと思ってる。それなのに、彼女と関わるたびに不安な雲が立ち込め、どうしてこんなに不愉快なの? 私は彼女に嫌われてるの? と考えながら立ち去ることになる。私の知らない誰かの噂話をする彼女は、ネガティブなエネルギーで震えているようだった。そう感じたのは私だけではない。彼女の元を去ってから、友人が 「なんでこんなモヤモヤした気持ちになるの?」 と言ったのだ。
あらゆる人間同士の交流は、双方に処理すべき感情を残していく。誰かに侮辱されたりけなされたりすれば、傷付いてその場を後にするのは当然だけど、会話にはもっと捉えがたい底流が付きもの。そこを流れるのは、不安を感じさせる言葉、妙な表情やビックリするような内容の携帯メール。その人が部屋を出て行くのと同時に、霧が立ち込めるかのように下がるムード。エンジンをうならせて走り去るスピードボートが残していく波のように、会話のあとで激しく揺れ動く心の波は、感情の余波と呼ばれている。
Text: Ada Calhoun Translation: Ai Igamoto Photo:Getty Images
人のネガティブな余波を避けるには?
元気をくれる余波もある。でも、ネガティブな感情たっぷりの交流を終えると、漠然とした不安感と徹底的に打ちのめされた感の狭間に取り残されることもある。リーダーシップエキスパートのスーザン・スコットは、人に預けてくる余波の中身を一人一人がよく知るべきだと考える。でも実際には、自分が与えている影響に気付きもしない人が多いそう。
「あなた自身は言ったことすら覚えていないような、7年前の何かに対してまだ怒っている人がいるかもしれない。もしくは、そのとき聞きたかった言葉をかけてくれたあなたに、今日までずっと感謝してきたがいるかもしれない」
感情の余波は、スコットの著書『Fierce Conversations』の中で2002年に生まれた言葉だが、そこには最新の響きがある。コロラド州の心理学者アリエル・シュワルツ博士によると、これには現在の分裂的な政治情勢も関係しているそう。「例えば、予測不可能で常軌を逸した政治家の行動を目の当たりにすると、人は彼らの表情や仕草に異常なほど敏感になる」。これは、人々が政治家のモチベーションの本質を見抜こうとしているから。
事細かに詮索するこの状態が、私たちを取り巻く人間関係にも入り込む。その結果 「現代人は、他人の余波を絶えず感知している」。ニューヨーク市の結婚・家庭セラピストのジェニファー・アーラスは、ソーシャルメディアも私たちを過敏にしていると指摘する。「自分の言葉が相手に与える影響をしっかり把握せずにパパッとコメントすることが、こんなに簡単だった時代はない」
風邪が移るように、感情も移る
感情の余波を受けることを、誰かの感情が自分に“移る”こととして捉えてみよう。人間の脳はこれを得意とする。例えば、誰かの感情的な表情を目にするだけで、脳内のニューロンがあなたにも同じ表情をさせようとする。この鏡のような反射が相手への共感を映し出すと同時に、どこまでが自分の感情で、どこからが相手の感情かをハッキリさせておくことが難しくなる。
親友との笑い泣きや、職場で褒められるといった幸せなやり取りであればいい。でも、慢性的に辛辣な友人の説教で休憩時間が潰れたり、上司の口からは批判的なフィードバックしか出てこなかったりすれば、あまりいい気はしない。
同様に、身体的に脅かされたり、感情的な脅威 ("友人が私の話で退屈している"、"上司は一度だって私の仕事を褒めてくれない") を感じたりすると、人は戦うか逃げるかの状況に追い込まれる。すると、脳の思考を司る部位が、感情を司る部位にハイジャックされる。あなたは防衛状態に突入し、閉じこもって怯えるか、あなたを至らない気持ちにさせている人への理解に苦しむことになる。
なお悪いことに、この反応は心と体にも影響を与える。誰かが頻繁に有毒な余波を残していき、それに対処する術を持ち合わせていないと、感情が蓄積し、気分が落ち込んだり、不安になったり、病気を患うことさえある。人間関係は免疫システムに影響を及ぼすこと示す研究結果もある。12年間にわたり1万人以上の被験者を対象に行われた研究では、親しい間柄にある人とは総体的にポジティブな関係を維持している人に比べて、ネガティブな人間関係の渦中にある人は致命的なケースを含む心臓疾患を発症する可能性が高いことが判明した。
また、この反応は感情の余波を受け取る側だけのものではない。ネガティブなエネルギーを発する人は、周囲の人がなかなか心を開いてくれないと感じたり、ネガティブさが自分に跳ね返ってくるように感じたりすることがある。スコットによると、部下を持つポジションでいつもネガティブな雰囲気を醸し出していると、否定的な感情に縛られすぎて結果が出せない、やる気のない部下たちに捕らわれることになるんだそう。でも、仕事は何にせよ、余波が悪いとキャリアに響く。
オクラホマ州の人事プロフェッショナルである41歳のミッシェル・ディーンは、「人を馬鹿にされたような気分にすることや、質問しても面倒くさがられるのではと思わせるのが上手い」 昔の同僚を思い出す。その女性が昇進を断られた理由は、彼女の口調にあったという。それでも、彼女はその評価には驚いたと文句を言った。「彼女の評判は誰もが知っていたのに、彼女は全く自覚していなかった」
自分の余波に責任を持つ
目に見えない自分のオーラを意識するだけで、人間関係は大きく改善する。シュワルツ博士いわく 「自分の余波に責任を持つことは、“私は自分自身があなたに与える影響を気にかけている” と言っているようなもの」。人にいい後味を残すには、アイコンタクトを取り、思慮に富んだ質問をして、その答えに耳を傾けること。
アーラスは 「その人たちにとって今日がどんな一日なのか、ちょっと考えてみる」 よう勧めている。「人に対して本当に興味を示せば、その人たちがあなたをどう思うか、あなたのそばにいることをどう感じるかに大きな違いが出る」
ニューオーリンズでレストランを経営する43歳のシャーナはその努力をする。「上司として、自分に不器用なところがあることは分かっているので、従業員の一人一人への話し方に注意を払うようにしている。この人にはこう話すべき、あの人には別の言い方をするべきと考えてから、ポジティブに聞こえるように情報の伝え方を工夫する」
自分の気持ちを認識し、詳細に述べることも大切。 「タフな一日を終えて帰宅した後パートナーを怒鳴りつければ、彼は自分のせいだと思い込み、罰せられた気分になって被害妄想に陥る」 とシュワルツ博士。「代わりに、“今日は仕事がタフだったから最悪のムードだけど、あなたのせいじゃないから” と言ってあげればいい」。一緒に笑うことにも大きな効果があるそう。
特定の人というよりは、自分の内面が余波に影響を及ぼしていることがある。アーラスは 「エネルギーをくれて元気が出るような活動に参加してる? あなたを疲れさせるネガティブなパターンから抜け出せないのでは?」 と問いかける。常に疲労困憊のあなたが、周囲の人を元気づけている可能性は低い。
怒っている、冷たい、基本的に人を落ち込ませるといったフィードバックを複数の人から得た場合には、注意深く聞き、自己防衛に走らないこと。シュワルツ博士によれば 「家族や同僚、友達から聞くことのすべてが真実とは限らない」。どちらかと言うと、その人の物の見方や主観の投影かもしれない。
とはいえ、意見が満場一致なら変化を起こすとき。言葉の生みの親であるスーザン・スコットですら、自らの余波と格闘中。「リーダーシップ研修を始めて間もない頃は、言っていることは的確だけれど、伝え方がキツイというフィードバックを受けた。私の言葉がキツイと感じるのは、その人たちの問題だと思った。ありとあらゆる残念な出来事に常に関わっていたのは自分であって、私の伝え方が問題になることが多いという事実を受け入れたのは、ずっと後になってから。この言い方をしたらどうなるだろうと、立ち止まって考えることの必要性を学んだ」
ロヨラ大学ニューオーリンズ校のセラピストで認定臨床社会福祉指導員のアジア・ウォンは、質の良い感情の余波を手厳しい理想とは対照的に、ポジティブなゴールとして捉えるよう勧めている。うまくいかないことのリストに加えるものではなく、人と自分の一日に変化をもたらす術として考えるのだ。
人の余波を処理する
誰かの有害な気体を吸う側にいると、直感的に逃げようと思うかもしれない。「でも、それはあなた自身の嘆きではないことを覚えておいて」 と語るのは、イリノイ大学シカゴ校の共感・社会的関係研究所でディレクターを務めるシルビア・モレリ博士。「大事なのは相手の感情を理解することであって、引き受けることではない」
彼女によると、臨床的に実証された方法の一つが視覚的に距離を取ること。話を聞きながらも、相手の体との距離が現実よりも遠いことを想像する。そこにある感情に耳を貸さないのではなく、より大局的に捉えることに集中するのだ。辛辣さを優しさでカットするのも別の戦術。ある匿名希望のメンタルヘルスセラピストには、余波があまりにもネガティブで、会うと具合が悪くなる患者がいるという。
「彼女と話をしていると緊張性の頭痛が起きる。会う前から痛くなる」 そう。対処方法を聞かれると 「彼女がうまくやっていることを指摘するようにしている。これが彼女の有毒性を弱めるので、対応しやすくなる」 と答えた。
このような人が身の回りにいると、その余波について彼女と向き合うべき時はいつなのか、いつから放っておくべきなのか、といった疑問が生まれる。シュワルツ博士はこう語る。「経験則から言って、銀行の窓口係や目の前にいるドライバーにひどく腹が立っているなら、気持ちを切り替えるだけでいい。でも、夫婦、友人、上司といった長期的に双方がコミットする関係であれば、気まずくても彼らがあなたをどんな気持ちにさせているかを伝える価値はある」
大切な人間関係において、両者に関与する意思さえあれば、気まずさはお互いにとって成長の機会となる。現状を受け入れるだけでは、何も改善しないのだ。
※この記事は当初、アメリカ版ウィメンズヘルスに掲載されました。