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がんばりすぎ、忙しすぎは誰のため?

有名な歌手ですら過労で倒れてしまう時代。現代人の多くは、眠い、疲れている、疲労こんぱい、完全に燃え尽きた、のどこかには当てはまるのでは。

もちろん、有名人の忙しさとは比べものにならないし、睡眠障害までいかなくても、きっと思い当たることはあるはず。

そんな時代だから今一度、“多忙中毒になって疲れきっていない?”と自分に聞いてみて。
たとえば、イギリスのフリーランス・エディターのビクトリア・ジョイの場合、スケジュールを見ると、この5週間で夜に予定がなかった日はゼロ。予定を入れない一日もよさそうなのに、一日フルに働いて、ジムのレッスンに行ってから夜中の11時にゼロから作った夕食をSNSに投稿している。「確かにこんな毎日は疲れるけれど、やめられない」とビクトリア。ヘルス・エディター、自立した一人の女性であり、恋人もいる、さらにボランティア愛好家といういくつもの立場を持っていると、確かに時間は足りない。それでも、正しい人に見られて、正しい人とつきあうことは大事!との思いから、仕方なしに、全部詰め込んでいるそう。

そんなビクトリアのインスタグラムのフィードは、「充実した毎日の証」。「なにもしないことはまるで人生を失敗しているみたいに思ってしまうから」。

身に覚えがある人も多いのでは? 現代人の多くは、“なにかしら活動しつづけていないといけない”という強迫観念にとらわれがち。ゆっくりすることよりも、毎日を刺激的で、すごい、と言われるようなことで埋めることを選んでいる。「自分の時間」という選択肢はもはやないみたい。

忙しいことがかっこいい時代?!

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なんでこんなことに? この忙しさにはどんな影響が? 心理学者のサンディ・マンは3月に発売された最新の著書、「The Upside Of Downtime」でその問いに答える。私たちは、時間がある時に、なにもしないことをあえて避けているそう。「せっかく時間があるのに、のんびりすることは貴重な時間を無駄にしている、と思ってしまう」とマン氏。「人間は、身体的にも精神的にも活動的であることに慣らされているので、テレビを見たり、本を読んだり、窓の外を眺める、といった受け身な行動は本質的価値がなく、もっと有益なことに時間を使わないと、と決めつけている」。

つまり、のんびりする機会がなくなったわけではなく、そういう過ごし方が選ばれなくなっただけ。忙しいことがまるで、勲章のよう。

実は、プレッシャーをかけているのは自分かも

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最近の調査では、イギリスの80%の女性が、1日に26ものタスクをこなしているのにもかかわらず、「まだがんばり足りない」と思っていることが判明。さらに、対象者の72%が、「達成しなくてはいけない」という思いは、まわりからの期待ではなく、説明できない自分自身の期待によるものと回答。

「ドラマを見たり、携帯電話の電源を切ったから、パートナーや友人、上司からなまけていたり、不十分だ、と言われることはほとんどないんです。でも毎日のように、その考えをたたき込んでいるのは、ほかでもない自分自身」とマン氏は解説。

たとえば、フリーランスで働いていると、仕事に明確なはじまりと終わりがないことが多い。時間に融通のきくフリーランスの生活、といえば一見、聞こえはいいけれど、実際は「四六時中働いていないと、十分に仕事していないと思ってしまう」と思いがち。9時5時の仕事をしていても、いつでもスマートフォンでつながっている今では、似たようなもの。

でも、夜中にメールが来ることと、それにその場ですぐ返信するのはまた別。もちろん緊急な仕事や上司からの要望もあるけれど、自己満足的に“自分がこのメールを返さないと”という世界を救うヒーローのような気持ちがどこかしらにあるときも。たとえば、ほかの人よりも遅く残っていれば、上司がいつでも頼ってくれる、と思うなど。

一方で職場で、まわりが仕事をしているランチタイムに席を立つことすら罪悪感…というような人も。Spanish Journal of Psychologyに発表された研究によると、女性は生物学的に男性よりもはるかに高い割合で罪の意識を感じると示唆。

その忙しさは誰のため?

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さらに、“忙しくなくては”というプレッシャーだけでなく、ソーシャルメディアが広がったせいで、目新しさや刺激をより一層求める傾向も。その結果、面白いことや意味のあることの価値観も変化した。

たとえばリラックスするためのこと、たとえばお菓子やパンを作ったり、本を読んだり、ヨガをしたり、といったことすらSNSの投稿のネタに。もちろん、レシピ通りの「インスタ映え」する焼き具合であることは必須!

ライフバランスを専門とするエマ・カーニーは、この「自分の時間をいつでも「インスタグラムで映えるようにしなくては」という風潮が危ないと指摘。「自分で忙しいことを選ぶことはともかく、他人にほめられるためにやることを選ぶというのは、また別。普段のありふれたことすら、まわりの目を気にしてやっていたら、一体いつリラックスすればいいのか」と話す。

身体とこころのためにもゆっくりして

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自分の時間をどうとらえるかが大きく変わったのは明らか。でも、仕事、育児、人間関係、インスタグラムの世界、といろいろ抱える女性にとって、オフの時間を昔の頃に巻き戻すのは理にかなっている。“なるべく多くを人生から絞り出すことがいい”と言い聞かせてきたけれど、実は科学は逆のことを言う。一つのタスクから次のタスクへと絶え間なくうつり、常にオンの状態で、いつもの罪悪感と闘いながら次のプロジェクトに進んでいては、身体は慢性的なストレス状態に。

「常に戦闘状態では、心臓も筋肉もいつでも緊張状態で、気が張っているようなもの。でも私たちの身体は、そんなに長時間この状態をキープするようにはできていない。常時忙しい状態では、身体にも悪く、高血圧や疲労、筋肉の緊張や緊張感につながる」とケニー氏。

「休息は睡眠にも勝る」と昔から言うように、精神科医で眠りの専門家でもあるマシュ―・エドランド博士も、「身体にとっては、休息は再生と同じ。つまり生きていくのにとても重要。心臓の細胞は3日で入れ替わり、身体の多くの細胞も数週間で入れ替わるので、そのために休むことはムダではなく、必要なこと。細胞の再生と入れ替わりに有効な、積極的な休息もいろいろとある」と説明。

さらに、Harvard Medical Schoolの研究でも、たった8週間の瞑想をするだけで、神経細胞が集まる、脳の灰白質が再生されたと発見。一日27分間のリラックス時間が、ストレスや緊張感とかかわりの深い偏桃体の密度に大きく影響し、自己認識や思いやりと関わる海馬にもよい影響を与えたという。

つまり、のんびりすることは身体のためにも、心のためにもなるということ。だからスイッチを切ってゆっくりして!

Are You Addicted To Being Busy? How To Tell You're Heading For Burnout

Text::Victoria Joy  Translation:Noriko Yanagisawa Photo:Getty Images