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今やコミュニケーションや連絡手段として欠かせない、SNSやLINEなどのツール。依存症ではないケースでも、やめられなくて困っている人は多いという。中には、トイレやバスタイム、寝る前もスマートフォンを手放せないという場合も。依存症をめぐる特集の第5回はこの“やめられない”現象の対処法を、臨床心理士の信田さよ子さんに取材した。

人間関係に影響するからこそ、SNSをやめるのは現実的には難しい

SNSやグループLINEは便利で楽しいからやめられないだけではなく、実は負担に感じていながらも、やめられなくて依存症になってしまうことがあると言うのは、コミュニケーションをめぐるトラブルにも詳しい原宿カウンセリングセンターの所長である信田さよ子さん。

そんな相談には「いっそやめればいいとは思いますが、現実的には難しいですね」と語る。

「多くの人の場合、SNSをやめられない事情があります。仕事関係であれば、やめるのは上司や先輩に失礼になってしまったり、ツイッターが連絡手段になっていて“やめると困る”ケース。例えば子どもの学校関係、いわゆるママ友のグループラインだと、やめたら人間関係の輪から外されたり、子どもに影響したらと思うとやめられないようです」

コミュニケーションツールは、やっていることで健康や生活に支障が出ることもあるけれど、やめることでも支障が出てしまうから厄介。「だから、やめるというのは非現実的なんです」と信田さん。

やめられないのは、昔も今も同じ。人間関係の「舞台」が変わっただけ

SNSやLINEなどの、スマホがあるがゆえとも思える“やめられない現象”。でも、信田さんによると「行われていることは、昔と変わらない」そう。

「人間関係の舞台が、リアルな場所ではなく小さな画面に変わっただけです。参加しない、やめると関係から外されるのは、スマホがなくて対面していた時代でもあったこと。

ただし、SNSやLINEだと閉ざされた空間の中で関係が外部の人から見えないため、難しい関係が生じやすいかもしれません。ママ友の場合だと、子どもという人質がいるから親は離れられないし、そこにだんだんと上下関係が生まれてしまうこともあります」

リアルに対面する場合は時間や場所に限りがあるけれど、スマホには限りがない。やりたくなくてもやめるわけにはいかないし、できる環境もそろっているからやってしまう。忙しくて疲れていても時間を削ってもSNSやLINEを深夜までやり続けてしまい、それが依存症につながることもあると信田さんは指摘する。

SNSはやめなくてもいい。「立ち位置」を変えてみよう

SNSやLINEをやめるのが難しい場合は、「完全にやめるのではなく、ポジションを変えてみるといいですね」と、信田さん。

「フェードアウトはできないから、言うなれば“フェイドア”くらいの距離にいるようにしましょう。具体的にはSNSへの投稿回数を減らして様子を見る、SNSやLINEへのレスを短くするなどです。

つまり離れるのではなく、立ち位置を変えるという考え方。そこから離れずにいて、その集団におけるポジションをジリジリと隅の方に変え、自分の存在を小さくしていきます」

実はこの方法にはスキルが必要で、信田さんいわく「ワーワー盛り上がったり、やりとりしている方がよっぽど楽だと思います」

「ですが、コミュニケーションツールが負担になっていたり、傷つけられたり、踏みつけられた場合は、『立ち位置が変えることができたら大成功だと思って、やってみたらどうでしょう』と提案しています」

また、負担に思っているのは自分。それがそもそも思い違いで、誰かの負担になっている可能性もある。コミュニケーションツールの負担や依存は、相互に起こり得ること。

自分では気づきにくいことだからこそ、勇気を出して立ち位置を変えて客観視することもたまには必要なのかも。

次回はいよいよ依存症をめぐるシリーズの最終回。一般の人だけではなく、セレブの世界でもニュースになるDVやモラハラ(モラルハラスメント)についてフィーチャー。そのキーワードが「DVは洗脳と同じ」。その意味とは? 最後までお見逃しくなく!



Photo : Getty ImagesText : Yuko Tanaka

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信田さよ子さん
臨床心理士

お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院勤務、CIAP原宿相談室勤務を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立、同所長を務める。依存症本人やその家族、DVや虐待問題などのカウンセリングに従事。著書に『依存症』(文春新書)『母が重くてたまらない』(春秋社)『共依存 苦しいけれど、離れられない』(朝日文庫)など多数。http://www.hcc-web.co.jp/ Twitter @sayokonobuta