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身近にある依存症のトラブル。しかし、依存症になることは確率が低い一方で、ゲームやSNS依存が世界的な問題になっていることを第1~3回でリポート。第4回である今回は、家族や大事な人が依存症かもしれないと思った場合の対処法。本人に気づいてもらうにはどうすればいい? アプローチのポイントを、臨床心理士の信田さよ子さんに引き続き伺う。

依存症になると孤立しやすい。それは、人間関係が壊れやすいから

友達の“ハマりすぎ”が原因で、付き合うのをやめた……そんな経験のある人って結構いるのでは? 例えばSNSの連投やレスの応酬に疲れ、友達でいるのをやめた。残業続きで平日のデートは無理と言っていた彼、実は連日夜の遊びに行っていたことが発覚して別れた、など。

「アルコール依存症の暴力や暴言、借金といったトラブルもそうですが、依存症が原因で周りの人が離れていくのはよくあることです。また、人間関係が壊れて孤立してしまうのが依存症の特徴でもあります」と信田さん。ギャンブル依存症の場合だと、ギャンブルを優先して友人や家族と離れ、ギャンブルに耽るケースも多いという。

「実際に行われている依存症の診断も相対的です。例えば“周りの人との関係が壊れたことがありますか”といった、家族や他人に迷惑をかけているかも基準の一つとなっています。では周りに人がいなければいいの? と思うかもしれませんが、これが診断の現状でもあります」

依存症は被害的思考に陥りやすい。「依存をやめさせる相手が悪い」

依存症で困るのは、周りの人たち。健康や生活に支障が出ているのであれば、自分を守るためにも“依存症の人との関係を絶つ”というのも、仕方のないことかもしれない。でも、依存症を持っている本人がそう思わないのも、特徴の一つ。

「依存症の場合は、人が離れてしまったり関係性が壊れるのは相手のせいだと思い込む傾向があります。自分は普通にしているのに相手が誤解した、理解されていないと思ってしまい、それがお酒や薬のせいだ、という洞察ができなくなってしまうのです」

本人にしてみれば依存する対象は絶対に必要な“モノ”や“コト”だから、取り上げる人に対しては被害的な思考になってしまうという。やがて人間関係が崩壊し、それがさらにお酒や薬など対象への依存を高めてしまうのだとか。

家族が依存症を指摘するのは逆効果? 関係性の悪化を招くことも

問題なのは、家族に依存症がいる場合。親や兄弟と簡単に関係を断ち切ることができないのは当たり前だ。実際に、信田さんのもとにも本人ではなく、家族から多くの相談が寄せられるという。

「依存症の人が自発的に相談に来ることはほとんどありません。自ら訪れる場合は、体の調子が悪くなって病院に行き、『医療機関から勧められたから来ました』というケースがほとんど。もともと本人は問題だと思っていないし、当事者意識のないことが多いので、これは当たり前のこととも言えます」

本人に自覚がない以上、家族が治療を促すことになる。信田さんによると、これがなかなか難しいのだとか。

「距離のある人からの意見であれば少し効果があることもありますが、家族からの意見には、ほとんどの場合が反発します。『自分稼いだ金で飲んでいるのに何が悪い! ちゃんと考えて飲んでいるのにアル中扱いするな!』など、指摘したことでむしろ関係が悪化してしまいます」

依存症には「やめる」ではなく「減らす」アプローチを

依存症の自覚を促すために「絶対にやってはいけないのが、否定することです」と信田さん。

「20年、30年と専門家が見てきて、発言の仕方一つにもいろいろな方法がありますが、大事なことは『あなたは依存症だからカウンセリングに行きなさい』『治療しなさい』と言わないこと。これは、言われた側にしてみれば上から目線に感じてしまい、逆効果。また、相手を否定するようなことを言わないことも重要。これも、本人が最も嫌うことです」

比較的効果があるのが、家族でお願いするパターンだそう。

「子どもみんなそろって、『ママのことは大好き、でもお酒を飲んでるママは見ていてつらいから専門家のところに行ってほしい』と頼むなどですね」

確かにこれだと全否定されてはいないし、愛情を感じやすい。でも、これでも効果がない人も。

「最近効果があるとされているのは、例えばアルコール依存であれば『飲み方について相談して、減らしてみてはどうですか?』というようなアプローチです。依存症だから治療しなければ、とか、完全にやめるべきというのではなく、あくまでも“減らす”というのがポイントになります」と信田さん。

実際問題、やめられないから困っているわけで、減らすのは現実的な提案でもある。ただし、これが全ての依存症の人に効果的というわけではないのが難しいところ。

「本人に依存症と伝えるのは難しいものです。状況をこじらしてしまうこともあり、伝える側のストレスも大きいと思います。場合によっては、健康や生活が壊れてしまうこともあります」

家族や大事な人の依存症に気づいたら、まずは自分が専門家に相談してみるのも解決策の一つだと、信田さんは提案する。次回は、最近多いSNSやLINEなどのコミュニケーションツールと依存症の関係について迫る! 

Photo Getty ImagesText : Yuko Tanaka

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信田さよ子さん
臨床心理士

お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院勤務、CIAP原宿相談室勤務を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立、同所長を務める。依存症本人やその家族、DVや虐待問題などのカウンセリングに従事。著書に『依存症』(文春新書)『母が重くてたまらない』(春秋社)『共依存 苦しいけれど、離れられない』(朝日文庫)など多数。http://www.hcc-web.co.jp/ Twitter @sayokonobuta