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依存症になる確率はどの人もゼロじゃない。けれど、依存に陥る可能性は低いことを前回、臨床心理士の信田さよ子さんに伺った。では、もし依存症になったら回復するもの? 第3回は依存症の治療について、実際に行われているアプローチやプロセスを信田さんにさらにインタビュー。

本人に自覚がなかった! 依存症の回復には「気づき」が必要

機会があれば誰にでも依存症になる可能性はある。だとしたら機会がなくなれば依存症は回復するかといえば、依存症の治療はそんなに簡単なものではないと教えてくれたのは、依存のケアにも詳しい臨床心理士の信田さよ子さん。

「そもそも依存症の場合は本人に自覚がないことが多く、治療を受けようとしません。依存する“モノ”や“行為”に接する機会を絶つ、お酒や薬などの対象物に触れないという以前に、まずは依存症だと自覚させ、治療する意思を持たせることが大切です。依存症だと気づかせるためのアプローチをすることから、治療がスタートします」

「気づく」ためのアプローチ法とは? ゲーム依存の場合

依存症の治療で注目されているのが、近年増加傾向にあるゲーム依存。特に子どもや若年層の依存症が世界的に問題視されていて、現在、WHOがOCD(診断基準)を作成しているという。

「ゲーム依存症の問題として高額な課金がニュースで取り上げられましたが、それより深刻なのが、身体的な支障です。視力の低下や脳への影響、成長期に座りっぱなしでいたために骨粗しょう症になったケースもあります」

この身体的なトラブルを逆手にとったアプローチが、治療に効果を見せているという。

「身長、体重、筋力、骨密度など全身を検査して、その年齢の平均値と比べます。具体的な数字を見ることで、依存している本人がゲームが自分の体に悪影響であることを認識するようです」

このほか、効果を上げているのが「合宿」「キャンプ」と呼ばれる治療法。

「合宿の期間は日本の場合、2週間程度。ただゲームをしない環境で生活するのではなく、メンターと呼ばれる先輩が1対1でつき、助け合ったり話し合いながらさまざまな体験をすることで、ゲームがなくても楽しいという考えに導いていきます。

ゲーム機やスマホだけでは人は生きられません。生きていくにはお金も必要なのです。現実の人間と触れ合うことがどうしても必要になります。オンライン上では得られない、五感を使ったリアルな感覚を体験するなかで、そのことに気づくことができるか、できないか。これがゲーム依存症から回復できるかの分岐点と言えるかもしれません」

対象への機会をなくすだけでは依存症は回復しない

気づき、自覚することからスタートする依存症の治療。依存する対象に触れる機会さえなくせば回復する、とはいかないのだそう。

「依存症になるほど熱中したのは、そうならざるを得ないほどつらい状況があったから。対象を遠ざけても、そのつらい状況が解消されない限り回復するのは難しいですね」と信田さん。

そもそも“ハマる”程度なのか依存症になるかの分岐点は、現実の人生をどこまで楽しんでいるか、生きることの満足をどこまで得ているかが大きく影響すると、信田さんは分析する。例えばゲームやSNSへの依存の場合、それ以上に楽しいものがないと思うと依存症になりやすい。現実の家庭や職場、友人関係よりスマホの中の楽しさが勝ってしまう状況をどうにかしない限り、依存症を治すのは難しいのだとか。

一度習慣として身についたものを治すのは大変。依存症には脳の働きが関係することもあり、“自分は依存症だ”と気づいたからといって、身についた悪習慣を治すのには時間がかかると言う。

自覚できない、気づけないのが自覚症の難しさ。そして、それだけでは回復しないという習慣性。次回はパートナーや周りの人の「依存症かも?」に気づいた場合はどうすればいいのか、信田さんに対処法を伺う。



Photo : Getty ImagesText : Yuko Tanaka

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信田さよ子さん
臨床心理士

お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院勤務、CIAP原宿相談室勤務を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立、同所長を務める。依存症本人やその家族、DVや虐待問題などのカウンセリングに従事。著書に『依存症』(文春新書)『母が重くてたまらない』(春秋社)『共依存 苦しいけれど、離れられない』(朝日文庫)など多数。http://www.hcc-web.co.jp/ Twitter @sayokonobuta